目的実践紹介 1.実践の目的2.実践の概要寅丸 真澄知識の共有/確認 → 運用/活用日本語を知る自己を知る企業・業界を知る 企業・業界調査および報告早稲田日本語教育実践研究 第 10 号 科目名:「キャリア形成のためのビジネス日本語・ビジネス文化 5」 レベル:初級 1・2 /中級 3・4・ 5 /上級 6・7・8 履修者数:30 名(2021 年春学期) 日本語学習者は何のために日本語を学んでいるのか。動機は様々であろうが,その多くが進学や就職等,自身のキャリアに役立つことを期待して学習しているのではないか。 本科目は,日本語を使ってビジネス・キャリアを築いていきたいという中上級日本語学習者(以下,学習者)の第一ステップとして設計された科目である。学習者にとって,ビジネス日本語とビジネス文化を学ぶことと,それらを使って実際にアルバイトやインターンシップで働く経験をすることは,極めて重要である。そのような学習と経験は,どこで就職したとしても,学習者のキャリア形成に役立つと考えられる。そこで,本稿では,学習者がアルバイトやインターンシップを十全に経験できるように,ビジネスの場で必要とされる日本語運用力と文化に関する基礎的知識の向上を目指した実践を紹介する。 本科目は,15 回の授業回を学習目的と学習段階によって 6 つに区分している(表 1)。 1 つ目の学習目的は,ビジネス分野で使われる「日本語を知る」ことである。企業や業界,働き方も多様化する現在,「ビジネス日本語」という確固としたものが存在するのか疑問もあるが,職場で期待される日本語というものは存在している。そこで,授業では,アルバイトやインターンシップ等の場面で必要とされる「敬語」をはじめ,「配慮」のための日本語表現や,「電話応対」「依頼」「営業」「交渉」「雑談」「面接」といった職場における日常場面に特有な表現や談話展開を学習し,運用練習を行っている。 次に,2 つ目の学習目的は,「自己を知る」こと,つまり「自己分析」である。多くの学習者にとっては耳慣れない,あるいは,自国で就職する者にとっては関わりがないものとして捉えられている。 しかし,就職する場所に関わらず,また,職業選択という目的に限定されることなく,主体的,自律的にキャリアを歩んでいくためには,「自分を知る」ことが重要になると考える。無論,日本語中上級レベルの学習過程であり,全員が日本での就職を目指している55表 1 学習目的と学習段階場面・機能に応じた会話練習自己分析シートの作成と振り返り学習者のキャリア形成を支援する日本語教育実践
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