早稲田日本語教育実践研究 第10号
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6.まとめCJL が重要な教育指針として掲げる,学習者の「自律性の育成」という目標に寄与できる相談内容件数が 3 件以上に渡る継続来訪者の相談内容について述べる。表 5 で示した通り,3 件以上の継続来訪者は合計で 8 名(22.7%)であった。相談内容件数が 1 件,または 2 件の継続来訪者と異なる点として,相談内容に「就職活動」「アルバイト」「心理的不安」「雑談」といった,授業やその他の日本語学習以外の相談内容が出現していた点が挙げられる。授業やその他の日本語学習について相談するうちにスタッフとのラポールが形成され,「アルバイト」等の生活相談や,「就職活動」といった長いスパンで取り組む活動に関する相談に至ったと考えられる。そのようなラポール形成に伴う相談内容の変化としては,その他,「心理的不安」に関する事例が挙げられる。JLPT の受験と大学院進学について相談するうちに,プレッシャーを感じていることを打ち明け,スタッフに不安を訴えるようになったり,「授業」「学習計画」「キャリア」についての相談の過程で,モチベーションの維持が難しいと不安を吐露するようになったという事例である。なお,「雑談」には,継続来訪者が施設に立ち寄ってスタッフに挨拶をするだけの事例もあれば,雑談しているうちに授業や学習計画についての相談が始まるという事例も観察された。本稿では,「わせだ日本語サポート」の来訪者のうち「継続来訪者」に焦点を当て,その利用実態について調査報告を行った。施設の利用頻度や利用時期から,来訪目的が明確で一貫している継続来訪者と,複数回来訪する過程で他の目的を見出す継続来訪者が観察された。また,中心的な継続来訪者は,授業の課題や宿題に関する相談を目的に来訪する学習者であったが,JLPT の受験準備のための質問や会話練習等,独自の目的を持って頻繁に来訪する学習者も多かったことが明らかになった。さらに,スタッフとラポールを形成し,日本語学習以外の相談を持ち込む継続来訪者の様相も観察された。継続来訪者は自らの意志で,すなわち自律的に施設を有効利用していたと言える。以上のような継続来訪者の調査結果から,今後の施設運営に必要な点について述べる。まず,多様な来訪目的を持つ学習者に寄り添える支援を目指して,スタッフが学内機関のハブとしての意識を持って対応することである。施設のミッションは日本語自律学習支援であり,その中心は学習相談である。しかし同時に,留学生支援のフロントラインに存在する留学生関連機関のハブとして,学習面のみならず,進路や生活に関わる一次相談を受けられる場であることが期待されている(寅丸 2019,寅丸・吉田 2021)。スタッフには単に学内他機関を紹介するだけでなく,一次相談の過程で学習者の置かれている状況や必要な支援を十分に理解して紹介し,学習者を次のステップに促す役割が求められる。次に,施設の利用方法の可能性を,利用パターンを示した可視化ツール等で留学生に伝えることである。もちろん,一貫した目的で施設を利用することも十分に有効であるが,様々な支援を受けられることに気づいていない,あるいは知らない学習者も多い。「わせだ日本語サポート」では,日本語自律学習支援を主軸にしつつ,様々なサポートが受けられることを理解してもらうことで,学習者独自の施設利用の可能性が広がるとともに,のではないかと考える。51ショート・ノート吉田好美・寅丸真澄/「わせだ日本語サポート」における継続来訪者の利用実態に関する調査報告

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