最後,主人公と先生一緒にコーヒーを飲んで,クッキーを食べて〜(中略)(JLC④)先生とティータイムを食べながら,喋っている(JLT ①)使用なし(産出例)N=5緑君と先生と二人一緒にご飯を食べて行きました(JLC ⑥)先生に会ったついでに一緒にクッキーも食べてお茶も飲みながら話しました(JLK①)その後先生と緑君は二人で食堂行って,お茶をしました(JLG ①)無効回答 先生はお礼の代わりにご馳走させてもらえませんかと言いました(JLC ①)資料 2 の状況で最も多かった産出例は「使用なし」であったが,これは産出者がストーリーの主人公である緑君の立場から事態を捉えていない表れであると考える。つまり,先生の行為をありがたい行為であり,かつ緑君が恩恵の受け手であるとは捉えていないことが窺われた。そのため,「−てくれる」の使用には繋がらなかったと考えられる。「−てもらう」を用いている産出例は,まず話者の依頼があってその行為に対する感謝の気持ちを表す表現であることを,まだ理解していないことが窺われる。あるいは文脈における主語の一致を考えすぎていたかもしれない。以上,「−てもらう」と「−てくれる」の産出例を中心に明示的指導による習得の効果を分析してみた。その結果,日本語話者のような捉え方を明示的に指導しても「−てくれる」のような,自分と話題の主人公の状況に共感し,関わりをもたせ,さらに恩恵の方向性をもとに使い分けをして言語化することは習得が難しいことが分かった。授受表現は「−て形」を加えた補助動詞としての用法もあり,それがまた恩恵的な行為までも表せるが,そのような用法においても,話者との関わりの中で事態を把握して言語化する傾向があるため,学習者にはこのような捉え方は明示的な指導があっても習得が難しいと思われる。本稿では授受表現の補助動詞としての用法における産出文を分析したが,授受表現の後で行った受動表現等のミニ作文では,ある人物に視点を固定し,主語を一致させながら,かつ関わりをもたせてストーリーをまとめていく作文が見られるようになった。このことから,繰り返して日本語話者の事態把握を明示的に指導していけば,その捉え方を理解し,文脈の中で適切に使用できるようになることが期待できると思われる。今後は授業で扱った他の言語表現の分析結果と併せてより深く検証していきたい。参考文献池上嘉彦(1981)『「する」と「なる」の言語学−言語と文化のタイポロジーへの試論−』大修館書店池上嘉彦(2006a)『英語の感覚・日本語の感覚<ことばの意味>のしくみ』NHK ブックス池上嘉彦(2006b)「「主観的把握」とは何か−日本語母語話者における「好まれる言い回し−」」JLC ①の産出例は,本調査分析の対象ではないため,無効回答とした。4.おわりに35ショート・ノート鄭在喜/事態把握の明示的指導の効果
元のページ ../index.html#39