□早稲田日本語教育実践研究 第10号/2022/29―36□□ 資料 2 「ご馳走してくれる」場面表 2 「-てくれる」の産出例□□「−てもらう」を適切に使えていた履修者は 13 名中 6 名いたが,該当状況を「−てもらう」を用いて産出したということはストーリーの主人公である緑君を受け手主語として捉えていることが考えられる。そして「−てもらう」を用いることで行為の受け手である緑君が,自分の依頼に対するプラスの行為を受けていることも表せ,産出者が緑君の立場からこの状況を把握していることが窺われた。一方,「−てくれる」を使用している産出例は警察の行為に対する恩恵を表す表現としては適切であるが,その行為そのものが緑君の依頼に対するものであることは表れていない。また「−てくれる」を使うためには主語が警察になるため,文脈の主語の一致がなされていないことになる。文脈における主語の一致については誤用などを提示しながら強調していた部分であるが,「−てもらう」の使い方が完全に習得されていないがゆえに,このような誤用につながったと考えられる。そして 1 名ではあったが,授受表現を使わず明示的な指導による改善が見られなかった者もいた。その他の 3 名は漫画のストーリーに対する理解が間違っていたため分析対象外とした。次は「資料 2」の場面の産出例をみる。この場面は緑君が先生の研究室に行き,先生に頼まれた本を買って渡したら,先生がその礼としてご馳走する場面である。ここも単に先生の行為を事実として語るのではなく,その行為を受け手である緑君がどのように受け止めたかを表すためには「先生が(は)クッキーなどをご馳走してくれた」と「−てくれる」を用いるのが適切である。この状況の産出例を以下の「表 2」にまとめた。表 1 同様,履修者の語彙の誤用は筆者が修正した。教授は緑君にご馳走してくれました(JLC ⑤)てくれる(産出例)N = 3教授は大変嬉しいてお茶をご馳走してくれました(JLT ②)先生は私にクッキーやコーヒーをご馳走してくれてたからとても嬉しかったです(JLG ②)教授はご褒美として緑君と一緒にお菓子を食べてもらった(JLC ②)てもらう(産出例)N = 4教授に一緒にコーヒーとビスケットを食べましょうと誘われてもらいました(JLC③)先生がご馳走してもらいました(JLT ③)先生から用意いただきましたクッキーとお茶を先生と一緒に食べました(JLC ⑦)34
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