□ショート・ノート鄭在喜/事態把握の明示的指導の効果□□ 資料 1 「道を教えてもらう」場面表1 「-てもらう」の産出例本分析に先立ち,授業の初日にレベル把握用として実施した作文の結果について少し述べる。作文は,ある人物のついていない一日について描かれている漫画を見てそのストーリーをまとめるものであるが,話者が直接関与していないことであっても自然な日本語になるためには,誰の立場から語るのかが重要になる。この作文はついていない人物の出来事が際立っている内容であるため,この人物の状況に共感し,関わりをもつと,何らかの被害を蒙ることを表す受動表現が適切な言語表現になる。しかしながらひとりの人物に視点が固定しておらず,結果的に動作主を中心にした,事実を語る内容のものが大半であり,日本語話者に近い事態把握はあまり見られなかったのである。そこで,本ミニ作文は前述通り明示的指導を行ってから産出を行っているため,指導の前後比較としてその効果の有無が確認できると考える。「資料 1」は,緑君が道に迷い,交番の警察官に聞く場面である。この場面は道を教えるという行為を受ける緑君が警察官に道を教えてくれるよう依頼をしている状況であるため,緑君の立場から言語化すると「緑君は警察官に道を教えてもらった」が適切な表現になる。この状況の産出例を以下の「表 1」にまとめた。履修者の産出文の中,語彙の誤用(例:漢字の変換ミス,人物の名前など)は筆者が修正した。警察に目的地への行き方を教えてもらった(JLC ①)警察に説明してもらった(JLC ⑤)てもらう(産出例)N = 6警察に詳しい場所をもらった(JLT ②)警察から助けてもらった(JLT ③)警察から親切に返事をもらった(JLC ⑦)警察に地図を説明してもらった(JLG ①)てくれる(産出例)N = 3警察は緑君を助けてくれた(JLC ②)警察が指導してくれた(JLC ⑥)警察がどうやっていくか教えてくれた(JLG ②)使用なし 警察に道を聞いた(JLT ①)警察に伝えた(JLK ①)警察にほめられた(JLC ③)警察が御礼をしてくれた(JLC ④)無効回答33
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