2-1.調査対象の授業本調査は,筆者が担当している留学生対象日本語科目の履修者を対象に行った。当科目は初中級レベルを対象にした日本語文法における視点を見直すもので,週 1 回(1 コマ90 分/ 15 週/非対面:Zoom 使用)計 15 回行っている。授業では,初回のオリエンテーションで簡単にレベル把握用の作文をしてもらい,翌週より「授受表現・態(ヴォイス:受身/使役/使役受身)・自他動詞・日本語話者の「見え」:主語「私」の使用について」という項目を扱っている。当科目のシラバスには「この授業は新しい文法を学ぶものではなく,初級レベルで学習した文法項目を見直すものである。ある状況・場面においてどうして日本語はこの文法を使うのか,どうして日本語ではこのように表現するのかについて考える。」と明記し,必ず初級レベルを履修してから当授業を履修するようにしている。そして,一つの文法項目の授業(復習を含む)が終わったら該当文型を用いたミニ作文を課し,次回の授業でグループ発表を通して新たな気付きを促している。授業では日本語話者の事態の捉え方が分かりやすい文法項目を選別して扱っているが,本稿ではその中で「授受表現」について行ったミニ作文の産出例を分析したものをまとめる。2-2.明示的な指導について授受表現に関する授業は 2 週間にわたり行ったが,簡単な復習のあと,以下の 3 点についてグループで話し合いをしてもらった。① 「−てあげる」について:使用時に注意しなければいけない点は何か。② 「−てもらう」について:いつ使うのか。③ 「−てくれる」について:どのような気持ちを表しているのか。この 3 点は日本語学習者によく見られる誤用である。①は過剰使用が散見され,②と③は文脈における主語の一致がなされていない誤用,また恩恵の与え手と受け手のどちらの側に話者が属するかという状況理解が出来ていないが故に,使用したほうが自然なところで使用されていない誤用である。グループの話し合いの結果,①の問いについては「上からの目線になってしまうから気をつけなければいけない」と過剰使用に伴う懸念を概ねよく分かっていた。しかし,②と③の問いについては使い分けがよく分かっておらず,適格な状況をきちんと挙げられなかった。そこで筆者は②と③について,それぞれ使われる状況を例にしながら次のように明示的指導を行った。まず②の「−てもらう」は,行為をする人は行為を受ける人のプラスになる行為をすること(例:友だちに車を貸してもらって助かった),行為を受ける人は相手に自分にとってプラスになる行為をするよう頼んだり期待したりする場合に使うと説明した。また行為を受けている人が嬉しいと感じ,感謝する場合にも使えるとした。そして③の「−てくれる」は,行為をする人の意志で,行為を受ける人のためにプラスになる行為をすること(例:彼は柔道を教えてくれた),また「嬉しい」「感謝」の気持ちを表2.調査概要31ショート・ノート鄭在喜/事態把握の明示的指導の効果
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