―授受表現を中心に―要旨1.はじめに鄭 在喜ショート・ノート早稲田日本語教育実践研究 第 10 号 本研究では,初中級日本語学習者を対象に日本語母語話者が好む事態の捉え方を明示的に指導し,その効果の検証を試みた。明示的な指導は,日本語話者は「授受表現(補助動詞用法)」を用いる際,「①事態を自分との恩恵的な関わりの中で把握し,言語化する」「②ある事態を,自分とその事態の当事者に関わりをもたせ,表現する傾向がある」といった主観的把握を好む傾向があることを強調しながら行った。そして作文を通してその効果を分析した。その結果,「−てくれる」のような,自分と話題の主人公の状況に共感し,関わりをもたせ,さらに恩恵の方向性をもとに使い分けをして言語化する表現は,明示的な指導を行ってもその運用が難しいことが窺われた。 キーワード: 事態把握,明示的指導,主観的把握,共感,関わり1-1.研究の背景本研究は,事態把握(construal)という認知言語学の概念を用い,日本語母語話者(以下,日本語話者)の事態の捉え方を明示的に指導した場合の学習効果について研究したものである。話者がある出来事を言語化する際にはその出来事の全てを語るわけではない。その中でも話者自身にとって印象的であったことや,話者自身と関連性を持っている部分についてより強調して語ったりすることは日常生活によくあることである。言い換えると,話者の言葉は,ある出来事を語る際,どの立場からその出来事を捉えているのかによって言語表現が異なるため,かなり主観的なものであると言える。そしてこのような言語化をどのような表現を用いて表すのかは言語によって異なるが,結果的に話者が最も語りたい部分を語っている傾向は,どの言語話者でも同様であると思われる。しかしながら,言語学習においてその言語をどれだけ流暢に話せるか,あるいは書けるかを評価する際には目標言語の母語話者のような自然な表現ができるか否かが問題となってくる。そして目標言語の母語話者のような自然な表現を習得するには,同じ状況について語る際,その母語話者がどのように事態を捉えているのかを理解することが重要であると考える。そこで,初中級日本語学習者を対象に日本語話者が好む事態の捉え方を明示的に指導し,それが実際どのように学習効果に繋がるのかについて調べた。1-2.先行研究池上(2006b)は,事態把握とは,話者がある事態に際して何をどう語るのかを話者29事態把握の明示的指導の効果
元のページ ../index.html#33