早稲田日本語教育実践研究 第10号
27/114

3.適応と経過来日初期の留学生の問題としては,不眠がよく知られるところである。環境変化が主な原因と考えられ,抑うつ気分と並んで受診者が多い症状 12, 17, 18)である。学生にとっては身体症状同様,訴えやすい症状ともいえる。これについて正確な調査はないが,石井の前任の筑波大学では途中で通院しなくなった例が多く 21),時間の経過とともにある程度の解決をみる可能性がある。多くは,留学生の困難といえばカルチャーショックが念頭に浮かぶこともあり,来日直後が最もストレスが強い時期と考えがちである。つまり,滞在期間が長くなり日本語の能力が上がれば,適応が進んでストレスも軽減することを期待する。しかし,滞在期間が長くなり日本語が上達しても,かえって文化の違いが実感されるなどでストレスが高まるという報告 11)もあり,簡単には片付けられない。従来から,留学生は来日数年後の受診例が少なくないと報告されている 11, 14, 18, 23)。その背景として,時間の経過とともに学業・研究の課題も広がり,そちらのストレスが大きくなること,また生活経験を経ることで,日本人学生同様,家族や交際相手,研究室での他の学生との問題など人間関係のストレスを感じるようになる,などの事情が考えられる。つまり,来日して時間が経つにつれ悩みは日本人学生に近づき,言葉や要領がわかる分,受診行動が高まると推測される。筆者の役割の一つに,来日前の留学生について疾患や障害の状態をチェックする業務がある。具体的には,疾患や障害を持つ来日予定者から提出された治療状況報告書処方できるか等の視点でコメントを行うのだが,毎年精神科領域の課題を持つ学生は多い。そのほとんどは,うつなどの気分障害や発達障害圏の問題である。日本で扱わないような即効性の中枢刺激剤や抗うつ剤を服用中の学生も少なくなく,コメントは来日前に主治医との相談を促す意図もある。精神科領域の疾患は多くが慢性疾患なので,症状は消失しきらない場合も多い。また,生活に制限や支障を抱えるケースも散見される。受け入れる大学側もこの点を直視し,悪化時を想定して話し合うなど,十分な準備が望まれる。1.精神症状への合理的配慮抑うつ状態や不安障害などの精神症状を抱える学生は,学期中欠席がちとなったり,課題提出が滞ったりする可能性がある。これは,日本人学生も含めて,精神疾患を持つ学生がしばしば呈する問題である。彼らに配慮する際は,本属校から発行されるサポートレターや治療状況報告書の記載内容が参考になるだろう。合理的配慮は,あくまで健常学生と修学条件をそろえるための方策であり,成績評価に介入するものではない。発達障害圏を申告するケースは当初から修学上の配慮を求めてくることが多く,近年日本人でもそのようなケースは増えている。「配慮願い」とは,なるべく健常学生と同じ条Ⅳ.寄せられる相談から(Student’s Condition Report)を確認し,本邦の医療で対応可能か,服用中の薬剤は本邦で23寄稿論文石井映美・樫木啓二・堀正士/留学生のメンタルヘルスについて

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る