早稲田日本語教育実践研究 第10号
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そこまで緊迫していない場合でも,修学上の配慮を要するケースもある。そのような場合,我々専門職スタッフは,有用であればスチューデントレポート(うつや不安などの精神症状が修学上不利にならないよう,例えば大勢の前での発表を別の形に置き換えるなど具体的な配慮を求めるもの)の作成や診断書,配慮願い⦅発達障害圏(自閉症スペクトラム障害 Autism Spectrum Disorder;ASD,注意欠如多動性障害 Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder;ADHD,学習障害 Learning Disorder;LD27)など)の学生に障害支援室が発行⦆などの作成を検討する。(3)青年期の課題本学がグローバル 30 に採択されて以降,年齢相応の悩みを抱えるであろう若い学部留学生も増えている。日本人学生と同じ青年期の悩みである。アイデンティティの確立,他者や異性との関係など,異国にあっては相談相手も限定され,深く悩む学生もいるだろう。本来であれば,仲間や友人と支えあい,躓きながらも乗り越えることを期待したいが,それに沿う十分な環境が整っているかどうかは,ケースによるところであろう。もちろんメンタルヘルスの悪化がこじれて重症化・長期化すれば,専門職の支援も考慮しなければならない。(4)精神疾患嫌なことや大変なことがあれば辛くなるのは誰しも共感できるところだが,そのようなストレス反応とは別に,双極性障害(いわゆる躁うつ病)や統合失調症(幻覚・妄想などの特異な症状を呈する精神疾患)などの狭義の精神疾患がある。これらの精神疾患も,ちょうど大学生の年代で発症しやすい 26)。理由なくハイテンションとなり成り行きで外車などの高額な品を次々購入する,「自分は宇宙から来た」など理解しにくいことを主張する,などの症状で明らかになる。どちらかといえば元来精神科医療はこの領域が専門ともいえ,このような状況(幻覚・妄想,逸脱した高調子など)には薬物療法などの身体療法以外に,即効性を期待できるものはない。留学生の急性幻覚・妄想状態についていえば,帰国後急速に病状が改善する例も知られており 12),後日心因反応と判断されるケースもある。長期の経過を追えないこともあり診断は難しい課題だが,これらの状態への対応は急を要することに間違いはない。2.症状の特徴精神科受診をためらいがちとされる留学生ではあるが,以前に比べると受診率は上昇している 21)。出身地域によってはこの領域への偏見も予想されるが,時代とともに意識も変化し,以前ほど抵抗はなく受診も日常化している印象がある。もっとも留学生の精神症状は身体化しやすいと言われており 14, 15, 19),一般科を受診している留学生もいるかもしれない。精神症状の自覚なく身体科のみの通院に終始する例を含めると,不調を呈する留学生は報告されるより多いかもしれない。22早稲田日本語教育実践研究 第10号/2022/19―28

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