早稲田日本語教育実践研究 第10号
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Ⅰ.はじめにⅡ.これまでの議論保健センター 石井 映美・樫木 啓二・堀 正士寄稿論文早稲田日本語教育実践研究 第 10 号 時は 21 世紀。旅客機が世界中を行きかい情報が瞬時にやり取りされる昨今,コロナ禍で一時様変わりしてはいるものの,グローバル化の波は世界中のどんな場所や人にも迫り来る実感がある。2008 年 7 月に文部科学省によって国際化拠点整備事業(グローバル 30)が策定され,国内では本学など 13 大学が採択された 1)。これは,「大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業」として遂行され,補助期間終了後の 2015 年 3 月,「期待された成果を上げたと評価できる」と総括されている 2)。本学は採択校として最高の S 評価を得,「Waseda Vision 150」などの取り組みは高く評価されて,留学生数を順調に伸ばして実績を作ってきた 3)。その後 2019 年末に始まる COVID-19 感染拡大の影響で留学をとりまく状況は一変し,2021 年現在も困難を極める状況にあるが,リモート授業の整備をはじめオンライン留学の活用など,現在も各所で学びのための工夫が重ねられている。また,本邦でのオリンピック・パラリンピックの開催などを通じて,我々が世界の一員である事実は,もはや国民誰にとっても意識せざるを得ないものとなっている。このような環境で,本学は 102 ケ国から 5347 名(2021 年 5 月 1 日)の留学生を迎え入れている 4)。コロナ禍前は,キャンパス内では当たり前のように英語で談笑する学生が行きかい,授業では留学生が完成度の高いレポートを日本語で仕上げていた。2018 年度末の本学キャンパスで,入職後間もない筆者石井はそれらを前に驚いたものである。このように留学生の存在は日本の社会にとって日常となってきたが,それに伴い,我々は彼らの生活面や健康面へのサポートをより充実させる必要に迫られている。留学生といえども,健康な生活なくして修学には向かえないのは当然であるが,彼らへのサポートは残念ながら十分とは言えないのが現状である。今回は留学生のメンタルヘルスに焦点を当て,まずはその実情をみながら今後の対応や課題を検討したい。日本の大学には保健管理部門を取りまとめる組織として全国大学保健管理協会 5)があり,毎年全国大学保健管理研究集会やフィジカルフォーラム(身体科部門)6)・大学メンタルヘルス学会(メンタルヘルス部門)7)などの学会が開催される。留学生のメンタルヘルスについては,これらの場面でとりあげられ,議論されることが多い。これまで留学生のメンタルヘルスは,カルチャーショックなど異文化ストレスとの関連19留学生のメンタルヘルスについて

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