8早稲田日本語教育実践研究 第10号/2022/5―17べた地球市民としての資質と重なるものである。CEFR の考え方は近年日本語教育の分野でも浸透しつつあり,国際交流基金は,この CEFR にもとづいて「JF 日本語教育スタンダード 2010」5)を開発し,CEFR の能力記述文(「〜ができる」という言語を使って何ができるかを記述した文。Can-do 記述文と呼ばれることが多い)をより具体的に日本語教育の実践の場で利用しやすいものにしようとする試みを行っている。学留学生センターでは,「JLPTUFS アカデミック日本語 Can-do リスト(略称 AJ Can-do リスト)」を作成し,初級 1 から超級までの 8 レベルに関して技能別の Can-do 目標を設定し,公開している。CEFR のレベル記述との対照は明記されていないが,到達目標の目安となる「Can-do サンプル」を明示するなど,具体的に到達目標を示している。早稲田大学 CJL においても,CEFR の理念を参照し,Can-do による能力記述を試みることにした。4-2.「総合科目群の目標記述 ver.1」の作成本節では,具体的な作業と成果物について述べる。まず,総合科目群の目標記述は,各科目コーディネーターを中心に検討が進められた。CEFR の能力記述を参考に,「コミュニケーション言語活動」のレベルで技能別に記述することを試みた。資料 1 は,総合科目群の中でも「総合日本語」(レベル 1 〜 6),「入門日本語」の各科目のレベル記述を,技能別に示したものである。現在,さらにその内容を初級後半以上のレベルの学習者にもわかる程度の日本語で全体のレベルとしてまとめた表を作成中である。表 2 には,その入門から中級レベルまでの記述の例を示した。表 2 中,2 行目の( )内には CEFR の能力参照枠の名称を参考までに入れた。初級後半(レベル 2)と初中級(レベル 3)の間に網掛けの列があるが,これはレベル 2 とレベル 3 の間をつなぐレベルの必要性について現在検討中のため,このような表記になっている。CEFR において,A1,A2 レベルは「基礎段階の言語使用者」と呼ばれ,B1,B2 レベルは「自立した言語使用者」と呼ばれる。レベル 2 とレベル 3 の間に「基礎段階の言語使用者」が「自立した」段階にスムーズに進めるような学習段階を検討する予定である。このレベル記述は,コミュニケーション言語活動の領域であるが,記述のレベルがやや抽象的であり,今後実際の教室活動に結び付けるためには,より具体的な言語行動を意識した Can-do の記述が必要になるであろう。また,コミュニケーション言語能力のレベルでも,どのような語彙,どのような構造に関する知識が各レベルで必要となるかを明記していきたいと考えている。特にアカデミックな内容についてどのように反映させていくかが重要なポイントとなる。Can-do による能力記述は,高等教育機関の現場にも浸透し始めている。東京外国語大
元のページ ../index.html#12