早稲田日本語教育実践研究 第9号
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62早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/61―62  このやり取りを,以下のように行った。まず,最初にボールを持った学生が「すみません。これは スペインの ワインですか。」と発話し,他の学生にボールを投げる。次に,受け取った学生が「いいえ,イタリアの ワインです。」と続け,さらに別の学生にボールを投げる。次に,受け取った学生が,また最初から同じやり取りを繰り返す。このようなやり取りが流暢に続くようになったら,さらに次に続く会話を付け足していき,徐々にやり取りを長くしていった。 この活動の目的は,他の学習者の発話からのインプットに加えて,学習者自らの発話でのアウトプットによって,定型表現の定着を促進することである。さらに学習者同士がボールを投げあうことで,「友好的な雰囲気作り(中村他 2005,p. 10)」を促すように試みた。 この活動を行うことで,発話の機会が増え,後のロールプレイ活動でも,「クレジットカードは OK ですか。」「はい,OK です。」(Breakthrough,p. 40)のような定型表現が自然に発話されていると感じられた。また,最初は戸惑っている学習者も見られたが, 慣れてくると,自身の話に自主的に置き換えて会話を楽しんでいる場面も見られた。例えば「これは スペインの ワインですか。」を「これは イタリアの ワインですか。」や「フランスの ビールですか。」に言い換えていた。このようなことによって,学習者自らが能動的に活動に参加していたと考えられる。さらに,席を立って輪になって,ボールを投げあうことにより,学習者同士の距離が,一層近くなったようにも感じられた。しかし,ボールを自由に投げあうことで,特定の学習者にボールが集中し,発話が偏る場面も見られた。今後は,より均等に発話できるように工夫しなければならない。加えて,このような活動以外にも A・L を目指した会話活動の方法を模索していきたい。参考文献キャプラン株式会社 J プレゼンスアカデミー(2015)『NIHONGO Breakthrough From survival to communication in Japanese』アスク出版 多賀三江子(2020)「アクティブ・ラーニングを試みた漢字授業の取り組み―YouTube『部首のうた』を活用して―」『早稲田日本語教育実践研究』8,51-52.中村律子・浅見かおり・金子広幸・宮崎妙子(2005)『人と人とをつなぐ日本語クラスアクティビティ 50』アスク出版 文部科学省中央教育審議会(2012)「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ〜(答申)用語集」    < https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2012/10/04/1325048_3.pdf >(2021 年 2 月 3 日閲覧) (たが さえこ,早稲田大学日本語教育研究センター)3.実践の成果と今後の課題

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