58早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/57―58 発表態度といった点である。それに伴い,発表者自身の気づきや反省も形式に関するものが多く見受けられた。また,聴衆として他者のプレゼンテーションを聞いた際,音声を聞きながらスライドの文字や図表を読み取るといった作業が,ヒトの情報処理に負荷をかけることに気づいた学生も多く,修正のたびに具体的に改善した部分の記載が増えていた。さらに,受講生の多くがグループ内プレゼンテーションに準備したスライドの完成度が低い,という認識でプレゼンテーションに臨んでいたため,聴衆に伝わらなかった点や理解が追い付かなかった点について,その原因を形式と結びつけている傾向があった。3-2.最終プレゼンテーション グループ内プレゼンテーションでの議論,その後のスライドや原稿の修正を経て,最終プレゼンテーションが行われたが,これまでに見られた形式についての内省に加え,内容や聴衆の立場に立った改善点の記述が目立つようになった。例えば,「聴衆の興味・関心に注意を向け,より意識を向けてもらうにはどうすればいいか」「より一般的な例を盛り込めば理解が深まったかもしれない」「専門が異なる聴衆の理解を促すためには構成の簡素化が必要」といった気づきなどである。また,学部 1・2 年生はテーマから形にするまで時間を要したが,最終的には,自分が思っている以上に相手に考えを誤解のないよう正確に伝えることの難しさや,言葉選びの重要性についても言及があった。中には,専門が異なる研究者や企業とのやりとりの際に今回の学びが応用できること,大学院でのアカデミック・プレゼンテーションとは異なる視点で考えることが記述されていた。このことから,アカデミック・プレゼンテーションはアカデミックな場面を前提とするが,その場面は聴衆によって異なると気づいたことが分かる。 急遽オンラインでの授業となったが,現在は学会もオンライン開催が主である。そのため,プレゼンテーションの授業においても,オンラインの特徴を活かせるようデザインしていく必要があると認識している。また,受講生の中には,聴衆の理解よりも専門的な表現の正確性を重視した者もいたため,改めてセンターにおけるアカデミック・プレゼンテーションについて考えさせられた。今後は,上記 2 点について検討する必要性があると考えられ,よりよい実践となるよう,引き続き改善していきたい。参考文献鎌田美千子・仁科浩美(2014)『アカデミック・ライティングのためのパラフレーズ演習』スリーエーネットワーク.(いげた たかこ,早稲田大学日本語教育研究センター)4.今後の課題
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