54早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/53―54 step0 として短いやりとりをすることから始める。次の step では与えられたテーマで,構3.陶冶 Bildung としての総合日本語 3(さいとう さとみ,早稲田大学日本語教育研究センター)2-1.口頭表現活動 step 0 〜 3 例えば,独りで教科書を読んだだけというレディネスであれば,日本語で他者とやりとりする機会が豊富であったとは考え難い。このような履修者もいることを踏まえ,まずは成を意識しつつ他者にわかりやすく説明する,次は自ら立てたテーマについて他者が理解出来るよう工夫し,質疑応答を通して互いに論点の結びを明らかにしていくことを目標としている。このように漸進的に高めていけるようデザインし,その伸びを自覚できるよう評価のあり方を設定している。これは単に口頭表現活動の塊として完結するものではなく,全ての言語活動に結びついていくべき全人的な技能として置かれている。2-2.文章表現活動 作文 1 〜 4,レポート 問いを立て,インタビュー/アンケートを行い,分析し,考察した上で意見を述べる活動を経て,最終的にレポートにまとめる。問いは自らの経験に基づく「ハテナ ?」である。この活動では,なぜそれを問うのかを明示化する過程で,単純な思いつきの「ハテナ ?」から,アイデンティティと思考の波間に知的欲求が湧いてくる様が見られる。「日本に来て初めて卵がけご飯を食べた。美味しすぎて毎日食べているが,みんなは生卵をどう思っているか」,「日本人学生はなぜ大学に来るのに化粧したりドレスアップしているのか」。何をどう尋ねたら知りたいことがわかるのか討論を重ね,質問のあり方を考え,回答を集計しながら結果の背景に思い巡らす。グループのメンバーと活動する中で異文化に気づき,思考を日本語でまとめていく。 2□1,2□2 で述べた活動は,他者と関わりながら,いわば問題発見解決能力を涵養するものである。多様な背景を持つクラスメートとのやりとりを重ね,互いの思考を理解する過程を経験する。このように,関係性の中で多様な考え方・感じ方に接し,自己組織的に智が創られていく場なのである。これは,この社会,どこかの社会で生きる力になることと繋がるものである。つまり,ここでいう“アカデミックな”とは,このように開けた思考を涵養することである。これは生涯に通底する“アカデミックな思考”に作用しうるものである。“アカデミックな学び”が取り上げられる際,なぜ問題発見解決能力というものが取り上げられるのだろうか。それは過去様々に論じられてきたとおりであり,各々が認識するところの環境において生きる力の育成・涵養に教育の髄を見るからであろう。総合日本語 3 の履修者にとって,いずれその理が利するのであれば,幸いなことである。参考文献菅長理恵・中井陽子(2016)「学生時代に培われたアカデミック・ジャパニーズと職場での活動のつながり―理系・文系の元国費学部留学生の事例から―」『アカデミック・ジャパニーズ・ジャーナル』8,55-64.
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