53齋藤 智美早稲田日本語教育実践研究 第 9 号 科目名:総合日本語 3 レベル:初級 1・2 /中級 3 ・4・5 /上級 6・7・8 履修者数:151 名 早稲田大学日本語教育研究センターにおける総合日本語 3 は,いわゆる初級を終えた中級前半として位置付けられている。しかし履修者のレディネスが多様なため,始めの数週は初級相当および初中級相当の表現をさまざまな活動を通して浚い学んでいく。その上で,いわゆる総合教科書『中級を学ぼう 中級前期』を用いて学習を進めていくが,これは学びの中のひとつの指標にすぎない。言語要素としては特に語彙のビルドアップを基盤とし,表現文型を増やし,産出表現のバリエーションを広げ伸ばすようデザインしているが,これは単に知識を増やすのではなく,「やりとり能力」を涵養していく要素として位置付けている。この「やりとり能力」の意味するところは,アカデミック・ジャパニーズの様々な定義のいずれかが通底となるものを含む。 先に述べたように履修者のレディネスは多様で,初級を半年で,あるいは 3 年かけてフォーマルな環境で学んだという者がいる一方,自分で教科書を読んで,動画サイトを見て,サブカルを通して等,独学の者もいる。そして履修動機も,日本文化が大好き,日本に住みたい,将来の役に立つかもしれない,必修単位だから,というように様々である。つまり,「日本語で日本人学生と混ざって学習・研究を行うために必要だ」という定義でのアカデミック・ジャパニーズを身につけるという動機は希薄,もしくは皆無なのである。 ところで,アカデミック・ジャパニーズとは何であろうか。菅長・中井(2016)では,先行研究における様々な定義を概観しながら,3 つの枠組み〜「大学での講義等に必要な日本語の言語要素および技能」,「他者とつながるコミュニケーション力・ネットワーク作り等」,「問題発見・分析・解決能力,論理的な思考力」の連合として整理している。これに従って見るならば,言語要素や技能は要素の一片にすぎない。総合日本語 3 における語彙や文法の取り上げ方もこれと同様である。また,その他の 2 つに照らせば,これらの意味する意義において,クラスという場における言語活動そのものをアカデミック・ジャパニーズとして内包している。これが総合日本語 3 のコースデザイン趣意であり,口頭表現活動と文章表現活動の 2 つの軸の相互作用を経験していくように設計している。1.総合日本語 3,そしてその履修者の特徴2.総合日本語 3 とアカデミック・ジャパニーズ実践紹介Bildung の場
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