42早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/35―42 本稿では,早稲田大学で学ぶ日本語学習者に対するビジネス・キャリア教育とその支援のため,将来ビジネス分野で自己実現を果たそうとする日本語学習者に必要とされる「能力」と,能力育成のための「実践」について検討した。具体的には,本学が求める能力を社会が求める能力観に位置づけた上で,留学生に対するビジネス・キャリア教育について,①技能教育中心である,②要素主義的・脱文脈的能力観に基づく,③学びのサイクルが構造化されていない可能性があるという問題点を指摘した。そして,これらの問題点の改善を目的として,ビジネス・コンピテンシー育成の必要性を指摘するとともに,そのための教育実践を設計・実施する際の 10 の重要点を示した。今後は,本稿で言及した内容をもとに,ビジネス・コンピテンシーの育成を目的とした実践を具体化したいと考える。付記: 本稿は 2020 年度早稲田大学日本語教育研究センター研究プロジェクト「留学生のアカデミック・キャリアおよびビジネス・キャリア支援のためのコース開発」の成果の一部である。参考文献経済産業省(2006)『社会人基礎力に関する研究会「中間とりまとめ」報告書』厚生労働省(2004)『若年者就職基礎能力修得のための目安策定委員会報告書』中央教育審議会(2008)『学士課程教育の構築に向けて(答申)』日本学生支援機構(2020)「2019(令和元)年度外国人留学生在籍状況調査結果」 URL: https://www.studyinjapan.go.jp/ja/statistics/zaiseki/date/2019.html(2020 年 9 月 20 日)日本経営者団体連盟(1999)『エンプロイヤビリティの確立をめざして―「従業員自律・企業支援型」の人材育成を』藤田英典(1997)『教育改革―共生時代の学校づくり』岩波書店.本田由紀(2005)『多元化する「能力」と日本社会―ハイパー・メリトクラシー化のなかで』NTT 出版.松下佳代(2010)「〈新しい能力〉概念と教育」松下佳代(編著)『〈新しい能力〉は教育を変えるか―学力・リテラシー・コンピテンシー』ミネルヴァ書房.松下佳代(2014)「大学から仕事へのトランジションにおける〈新しい能力〉」溝上慎一・松下佳代(編)『高校・大学から仕事へのトランジション』ナカニシヤ出版.溝上慎一(2016)「アクティブラーニングとしての PBL・探究的な学習の理論」溝上慎一・成田秀夫(編)『アクティブラーニングとしての PBL と探求的な学習』東信堂.文部科学省(2020)「留学生の就職促進に関する周知及び調査研究(留学生就職促進プログラム)成果報告書」早稲田大学(2013)「WASEDA VISION 150」 URL: https://www.waseda.jp/inst/vision150/about(2020 年 9 月 20 日)早稲田大学キャリアセンター (2020)「2019 年度早稲田大学進路状況 外国人学生・外国人留学生」 URL: https://www.waseda.jp/inst/career/assets/uploads/2020/09/AY2019-International-Students-Career-Pathj.pdf(2020 年 9 月 20 日)Barnett, R (1994) The Limits of Competence: knowledge, Higher Education and Society, Open University Press.OECD (2005) The definition and selection of key competences: Executive summary. OECD.(とらまる ますみ,早稲田大学日本語教育研究センター)(ゆん じひょん,早稲田大学日本語教育研究センター)7.まとめ
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