早稲田日本語教育実践研究 第9号
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41ショート・ノート寅丸真澄・尹智鉉/早稲田大学の日本語学習者が育むべき「ビジネス・コンピテンシー」とは何か② 能力の利用目的の明確化:何のために能力を育成するのかという視点であり,個人・企③ 学習対象能力の選定と具体的な記述:育成すべき能力から課題を設定する方向と,対応④ 能力の文脈依存性・相互依存性の重視:統合的・文脈的能力観に従えば,特定の行為の⑤ 「統合的・文脈的アプローチ」の採用:④に示したように,具体的な行動から概念化さ⑥ 真正性の重視:現実の課題解決では,経験によって獲得した統合的・文脈的能力をいか⑦ 効果的な課題設定:統合的・文脈的アプローチにより,育成すべき能力が効果的に文脈⑧ メタ認知の育成:統合性と文脈性を重視する統合的・文脈的アプローチによって課題解⑨ 日本語知識・運用力の育成:日本語もまたコンピテンシーの 1 つである。しかし,日本⑩ 評価の精緻化・可視化:ビジネス・コンピテンシーは,情報→知識→経験→行動→評価題である。本学の教育の射程を踏まえれば,学習者の人生の充実が重要であると言える。業・コミュニティ・社会,家庭生活・職業生活・市民生活等が挙げられる。本学の「グローバルリーダー」は,個人の幸福と社会の発展の双方を目的としていると考えられる。すべき課題から必要な能力を演繹的に特定するという方向の往還を繰り返しつつ,学習対象能力を選定して具体的に記述し,学習者と共有することが重要である。文脈の中で複数の能力が相互依存的に影響し合い,行為を成立させると考えられる。文脈性,統合性,相互依存性を重視した能力観を踏まえて実践を設計,実施する必要がある。れた多様な能力を再文脈化して統合的に活用できるような授業課題や活動が期待される。課題発見解決等のための学習環境づくりや仕掛けについても十分に留意すべきであろう。に具体的な行動に転用できるかが鍵となる。転用可能な能力とは現実場面で役立つ能力である。そのため,いかに真正な(authentic)密度の濃い課題を経験させるかが重要になる。化して統合され,かつ学習者の動機付けが高まるような真正な課題設定が重要である。決を行う場合,どのような能力をいかに使えば目的を達成できるのかという,能力の使い方を自律的,効果的に計画,調整できるメタ認知を育成することが期待される。語学習者にとっては最も学習困難なコンピテンシーであると考えられる。そのため,授業活動におけるそれぞれの過程で知識と運用の両面に対する十分な支援が必要である。といったサイクルの中で適正に評価されることが期待される。統合化・文脈化されている能力を分解し,それぞれの評価基準で形成的に評価することが重要である。以上をまとめると,日本語学習者が生の視点から自身のビジネス・キャリアについて考えつつ,ビジネスに関わる真正な課題を発見し解決していく実践の過程で,統合化・文脈化されたビジネス・コンピテンシーを向上させていけるような実践が期待される。具体的には,ビジネスの文脈で設計,実施される PBL(Project-Based Learning)(溝上,2016 他)等,課題発見解決型の実践である。これまでも同種の実践は多々行われているが,実践の中には活動自体が目的化されていたり,育成されるコンピテンシーが曖昧であったりするものもある。本稿では特に,学習者に対するライフ・キャリアの意識化,現代のビジネスの文脈を踏まえた真正な課題設定,ビジネス・コンピテンシーの適切な選定と具体的な記述,活動の統合化と文脈化,形成的評価の精緻化と可視化という点が重要であると考える。

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