早稲田日本語教育実践研究 第9号
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ショート・ノート寅丸真澄・尹智鉉/早稲田大学の日本語学習者が育むべき「ビジネス・コンピテンシー」とは何か名  称① キ ー・ コ ン ピ テ ンシー (OECD,1997  OECD-PISA DeSeCoプロジェクト)②学士力  (文部科学省,2008中 央 教 育 審 議 会 答申『 学 士 課 程 教 育の構築に向けて)1 相互作用的に道具を用いるA 言語,シンボル,テクストB 知識や情報C 技術2 自律的に活動するA 大きな展望の中で活動するB 人生計画や個人的プロジェクトを設計し実行するC 自らの権利,利害,限界やニーズを表明する3 異質な集団で交流する A 他者と良好な関係を作るB 協働するC 争いを処理し,解決する知識理解汎用的技能態度・志向性能       力多文化の異文化に関する知識の理解人類の文化・社会と自然に関する知識の理解コミュニケーション・スキル数量的スキル情報リテラシー論理的思考力問題解決力自己管理力チームワーク・リーダーシップ倫理観市民としての社会的責任生涯学習力37(3)学校や社会,仕事との接続に関わる(4)生涯持続するという 4 点を挙げている。また,これらに共通する能力として,基本的な認知能力,高次の認知能力,対人関係能力,人格特性・態度を挙げている。つまり,「新しい能力」とは従来の認知的専門的能力から社会的汎用的能力へ,特定技能から全人格に拡張,深化した能力観であると言える。たとえば,表 1 には DeSeCo のキー・コンピテンシーと高等教育機関の教育に関わる能力が示されているが,①から④はいずれも基礎的能力であること,また,「主体性」「実行力」「倫理観」等,認知能力外の能力や思考,態度,社会常識等が含まれていることがわかる。これらの能力を最も俯瞰的,根源的に表したものが DeSeCo のキー・コンピテンシーであると言える。そこで重視されているのは,①個人は環境との効果的な相互作用のために道具を活用すること,②相互支援の必要性が増す現在,個人が他者と関係を持てるようにすること,③個人が自身の生活や人生について責任を持って管理,運営し,自身の生活を社会に位置づけ,自律的に活動することであり,「現代生活の複雑な要求に直面する反省的実践」を行わせることが提案されている(OECD,2005)。さらに,その特徴として「特定の状況」に対応する文脈性,「(技能や態度を含む)心理社会的な資源を引き出し,動員」する統合性,「複雑な需要に応じる」課題解決のための行動が重視されていると考えられる。つまり,「どのような時代や場所,環境においても,それぞれの文脈の中で多様な能力を統合的に活用しつつ他者と協働して課題に取り組み,個人と社会の双方の価値を創造し,自己実現を果たしていけるような基礎的汎用的能力」であると言える。本稿では,このような基礎的汎用的能力を DeSeCo に従い,「コンピテンシー」として表す。本学が求める能力や素養も,これらのコンピテンシーの中に位置づけられる。DeSeCoは教育すべきコンピテンシーは組織や機関により調整されるとしているが,「グローバルリーダー」に必要とされるコンピテンシーは,本学独自のコンピテンシーであると言える。表 1 「学士力」「社会人基礎力」「就職基礎能力」を構成する能力

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