早稲田日本語教育実践研究 第9号
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36早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/35―42早稲田大学では,大学創立 150 周年(2032 年)へ向けた「WASEDA VISION 150」(早稲田大学,2013)の「Vision1」として「世界に貢献する高い志を持った学生」,またを掲げている。「グローバルリーダー」とは「何処にいても,またどのような分野で活躍するにしろ,地球市民一人ひとりの幸せの実現をリードする能力と意志を持ち,地球規模の視点で思考・実行する人材」であるとされている。また,そのグローバルリーダーを育成するため,本学での学修を通して学生が身につける能力や素養として,ディプロマポリシーに以下の 6 つを挙げている。1 構想・構築力(進取の精神を持って,伝統の殻を破る新しい概念を構築する力),2 問題発見・解決力(新たな問題を言語化またはモデル化し,解を提案,論理的に説明する力),3 コミュニケーション力(能力や素養を活かすために,他者との相互理解を実現する力),4 健全な批判精神(社会および自然界の事象を多面的に捉え,既存の問題設定や解を健全に批判し,建設的な提案を行う姿勢),5 自律と寛容の精神(自主独立の精神を持って自他の個性を認め,公正な視点で多様性を受容する姿勢),6 国際性(「たくましい知性」と「しなやかな感性」を持ち,多様な人々と協働して世界の様々な問題の解決に当たることができる姿勢)。以上の能力や素養は本学の全学生に求められ,全教場で目指されるべきものである。しかし,CJL の日本語教育の文脈の中で議論されたことはない。次章では,CJL の日本語教育について検討する前に,これらを現代社会で提起されてきた能力観の中に位置づける。社会が求める能力は時代とともに変遷する。科学技術の発展とともに情報化や世界のグローバル化,流動化が進むなか,国内では 2000 年頃を境に多様な能力概念が提唱され,職業能力以外の能力の育成が重視されるようになった。OECD 主導で 1997 年に開始した能や態度を含む)心理社会的な資源を引き出し,動員して,より複雑な需要に応じる能力」(OECD,2005)としている。コンピテンシーは「リテラシー」を拡張した概念であり,①個人の成功と社会の発展の双方に寄与し,②多様な状況における複雑な要求や課題に応えるために活用され,③あらゆる人々にとって重要な能力であるとされる。その中核となるキー・コンピテンシーが表 1 ①の 3 つである。また,国内の高等教育機関に関わる能力概念としては,「エンプロイヤビリティ」(日本経営者団体連盟,1999),企業が若年層の職業人に求める就職基礎能力(厚生労働省,2004),職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的能力としての「社会人基礎力」(経済産業省,2006),自立した市民や職業人に必要な能力として大学のディプロマポリシーにも深く関わる「学士力」(文部科学省,2008)等がある。松下(2014)は,人格の深部におよぶ全人的な「ポスト近代型能力」(本田,2005)を「新しい能力」と呼び,その特徴として,(1)全人格に関わる(2)グローバル化している2.早稲田大学が求める人材と能力・素養Vision 実現の柱となる「基軸 1」に「人間力・洞察力を備えたグローバルリーダーの育成」3.社会が求める能力OECD-PISA の DeSeCo プロジェクトでは,「コンピテンシー」を「特定の状況の中で(技

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