35ショート・ノート寅丸 真澄・尹 智鉉プローチ,PBL(Project-Based Learning)早稲田日本語教育実践研究 第 9 号 キーワード: ビジネス・コンピテンシー,キャリア教育・支援,統合的・文脈的ア本稿の目的は,早稲田大学で学ぶ日本語学習者に対するビジネス・キャリア教育とその支援のため,将来ビジネス分野で自己実現を果たそうとする日本語学習者に必要とされる「能力」と,能力育成のための「実践」について検討することである。途上国の人材育成支援と国際友好関係の強化を目的とした「留学生受入れ 10 万人計画」(1983 年),および日本経済の活性化と大学の国際競争力の強化を目的とした「留学生 30万人計画」(2008 年)を経て,2019 年には外国人留学生は 31 万人を超えた(日本学生支援機構,2020)。留学目的が自国への貢献という公的課題から自己実現という私的課題へと変化する一方(藤田,1997),国内では,急速に進む世界のグローバル化や技術革新,少子高齢化による労働力不足等を背景として,労働市場における優秀な留学生の獲得と定着が喫緊の課題となっている。2016 年の「日本再興戦略」において,留学生の日本国内での就業率を現状の 3 割から 5 割に伸ばすことが目指されたが,2017 年度は 32%(学部卒業生・大学院修了生は 35%)に留まった。留学生の 6 割が国内就職を希望していると言われる現在,国内就職希望者をいかに希望通り就職させるかが重要な鍵となっている。早稲田大学においても,2019 年 7 月 1 日現在の学部・研究科の国内就職率は 32%(国外就職率 13%,進学 22%,就職活動中 23%)に留まっており(早稲田大学キャリアセンター,2020),国内就職希望者の内定率を高めることが継続的な課題であると言える。留学生にとって日本の就職活動が困難な理由としては,第一に,社会文化的差異や日本語による情報収集,および日本独自の就職活動システムへの適応が困難なことが挙げられる。また第二に,高等教育機関において育成されるべき人材像と現実の教育とのずれが挙げられる。世界のグローバル化や IT 技術の進歩が急速に進む VUCA(Volatility(変動性),な能力を駆使して自己実現を果たしていける人材が必要とされるが,そのような人材育成が十分になされていない可能性があるということである。以上のような状況下において,日本語教育研究センター(Center for Japanese Language;以下,CJL)では,ビジネス・キャリアを目指す日本語学習者にどのような教育・支援が提供できるのか。本稿では,学習者に求められる「能力」と,能力育成のための「実践」について検討する。1.はじめにUncertainty(不確実性),Complexity(複雑性),Ambiguity(曖昧性))の時代には,多様早稲田大学の日本語学習者が育むべき「ビジネス・コンピテンシー」とは何か
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