30早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/27―33表 2 学士力に関する主な内容(文部科学省 2008)専攻する特定の学問分野における基本的な知識を体系的に理解するとともに,その知識体系の意味と自己の存在を歴史・社会・自然と関連付けて理解する。(1)多文化・異文化に関する知識の理解(2)人類の文化,社会と自然に関する知識の理解知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能(1 )コミュニケーション・スキル:日本語と特定の外国語を用いて,読み,書き,聞き,話すことができる。(2 )数量的スキル:自然や社会的事象について,シンボルを活用して分析し,理解し,表現することができる。(3 )情報リテラシー:情報通信技術(ICT)を用いて,多様な情報を収集・分析して適正に判断し,モラルに則って効果的に活用することができる。(4 )論理的思考力:情報や知識を複眼的,論理的に分析し,表現できる。(5 )問題解決力:問題を発見し,解決に必要な情報を収集・分析・整理し,その問題を確実に解決できる。(2 )チームワーク,リーダーシップ:他者と協調・協働して行動できる。また,他者に方向性を示し,目標の実現のために動員できる。(3 )倫理観:自己の良心と社会の規範やルールに従って行動できる。(4 )市民としての社会的責任:社会の一員としての意識を持ち,義務と権利を適正に行使しつつ,社会の発展のために積極的に関与できる。(5)生涯学習力:卒業後も自律・自立して学習できる。これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し,自らが立てた新たな課題にそれらを適用し,その課題を解決する能力1.知識・理解2.汎用的技能3.態度・指向性 (1)自己管理力:自らを律して行動できる。4 .統合的な学習経験と創造的思考力政府主導によって各専攻分野を通じて培うべき学士力が提示されるに至った背景には,グローバル化する知識基盤社会において学士レベルの資質能力を備える人材養成が重要な課題であることと,他方では,目先の学生確保が優先される傾向がある中,大学や学位の水準が曖昧になったり,学位の国際的通用性が失われたりしてはならないことへの認識があったとされる。このような趣旨から考えると,学士力の主な内容である「1.知識・理解」「2.汎用的技能」「3.態度・志向性」「4.統合的な学習経験と創造的思考力」は,日本の大学で学ぶ日本語学習者にとっても涵養すべき能力・資質であることに違いない。さらに,日本語学習者が日本での継続的なアカデミック・キャリアを志向し,実際にキャリアを形成していくためには,学士力で謳われている能力・資質の涵養が欠かせない。このような観点から,次項では,日本語学習者が日本の高等教育機関において育むべき能力・資質として「キー・コンピテンシー」について考察する。日本は 2000 年以降,OECD による国際生徒の学習到達度調査(PISA: Programme for 念を教育現場で積極的に取り入れてきた。PISA 調査で応用力と活用力の不足という結果4.キー・コンピテンシーの涵養と CJL における人材育成International Student Assessment)に参加し,PISA において提示された「リテラシー」の概
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