早稲田日本語教育実践研究 第9号
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29ショート・ノート尹智鉉・寅丸真澄/早稲田大学の日本語学習者が育むべき「アカデミック・コンピテンシー」とは何か表 1 日本留学試験の概要(日本学生支援機構)読解,聴解,聴読解領域では,文章や談話音声などによる情報を理解し,それらの情報の関係を把握し,また理解した情報を活用して論理的に妥当な解釈を導く能力が問われる。ア)直接的理解能力:言語として明確に表現されていることを,そのまま理解することができるかを問う。イ)関係理解能力:文章や談話で表現されている情報の関係を理解することができるかを問う。ウ)情報活用能力:理解した情報を活用して論理的に妥当な解釈が導けるかを問う。記述領域では,「与えられた課題の指示に従い,自分自身の考えを,根拠を挙げて筋道立てて書く」ための能力が問われる。問われる能力問題領域1.読解,聴解,聴読解領域2.記述領域日本留学試験において「アカデミック・ジャパニーズ」という名称を用いることにより,「大学教育における留学生の日本語能力」を日本語教育の中の一つの領域として特化したことには成功した。しかし,その内容については,結果的に「問題提起」にとどまり,その後の議論を呼ぶこととなった(森 2005)。門倉(2003)は,日本留学試験の「日本語シラバス」の諸規定は言語テスト一般のあり方を羅列した,抽象的で一般的な記述が大部分を占めており,肝心のアカデミック・ジャパニーズのあり方を示唆する箇所は少ないと指摘している。実際,今回の文献調査(2)において各種データベースから「アカデミック・ジャパニーズ」が主題,副題,キーワードのいずれかに含まれている論文を集め,本文の該当部分を確認してみた結果,日本語学習者のキャリア支援という観点から参照可能な,汎用性のある定義を見つけることはできなかった。その理由は,多くの論文が「日本留学試験」に書かれている通り「大学教育における留学生の日本語能力」としか概念の提示をしておらず,または「大学での勉学を目的とした日本語」であると,狭義での意味としてのみ捉え,その範囲内で検討を行っていたからである。そこで本調査者らは,日本語学習者のアカデミック・キャリア形成という観点から,日本の大学教育で問われている「学士力」からの考察を試みた。文部科学省(2008)の「『学士課程教育の構築に向けて』中央教育審議会答申」では,学士課程共通の学習成果に関する参考指針として各専攻分野を通じて培う学士力の概要が示された(詳細は,表 2 を参照)。国として学士力の概要を明確に示したのは,学士課程で育成する 21 世紀型市民の内容(日本の大学が授与する学士が保証する能力の内容)に関する参考指針を明らかにし,各大学における学位授与の方針等の策定や分野別の質保証の枠組みづくりを促進・支援するためであった。

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