早稲田日本語教育実践研究 第9号
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28早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/27―33能なアカデミック・キャリアの支援および教育について検討する。なお,ビジネス・キャリアへの支援および教育に関する考察は別稿に譲る。本調査の目的は,基礎的文献調査を実施することで,日本語学習者がアカデミック・キャリアを形成するために必要とされる能力・資質に関する概念を精緻化・明確化することである。実際には,WEB 基盤調査による 3 種類の資料収集を行った。(1)文部科学省を中心に,関係する各省庁および公的機関の資料における「アカデミック・ジャパニーズ」,「学士力」に関する言説の収集,(2)各種論文データベースでの「アカデミック・ジャパニーズ」関連の論考の収集(3)各高等教育機関における「アカデミック・ジャパニーズ」関連科目の概要に関する情報の収集である。データ収集における第一キーワードはアカデミック・ジャパニーズ(Academic Japanese)である。これは本来,学術的日本語または研究のための日本語などを意味するものである。だが,2002 年より「日本留学試験」が実施され,日本語シラバスや出題範囲との関連からアカデミック・ジャパニーズとは「日本の大学等で教育指導を受けるのに必要とされる日本語の能力」(日本学生支援機構「日本留学試験シラバス(出題範囲)」)であると表記されて以来,最も一般的な定義の一つとして使われている。ただし,この定義は日本留学試験の受験者に対する説明の一部であったことから,あくまでも狭義の意味であると捉えたほうが妥当であると考える。したがって,今回の調査では,4 年制大学またはそれに相当する水準の教育機関を卒業する人物が最低限身につけておくべき能力を意味する「学士力」の概念からも情報収集を行い,日本語学習者が育むべきアカデミック・コンピテンシーおよびそのための教育・支援について包括的な考察を試みた。なお,先述した通り,本調査の目的はアカデミック・コンピテンシーに関する概念の精緻化・明確化であることから,収集された資料を対象とした定量的分析は行わず,①概念の定義に関する整理および知見の統合,②下位分類・要素の抽出および項目の整理を中心に文献調査の結果をまとめる。3-1.日本の大学における日本語学習者のアカデミック・キャリア形成日本の大学で学ぶ日本語学習者のアカデミック・キャリア形成を考えるにあたり,最初に検討すべき指標は「日本留学試験」の日本語シラバスである。この試験は,日本の高等教育機関(特に大学学部)に外国人留学生として入学を希望する者が,大学等での勉学・生活において必要となる言語活動に日本語を用いて参加していくための能力をどの程度身につけているかを測定することを目的とする(詳細は,表 1 を参照)。この試験に合格することは日本語学習者が正規課程の学生としてアカデミック・キャリアを踏み出すための最初の関門となり,受験のための日本語教育および支援は,多くの場合,語学学校等の予備教育機関を中心に行われている。2.文献調査の概要3.調査結果および考察

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