早稲田日本語教育実践研究 第9号
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27ショート・ノート尹 智鉉・寅丸 真澄カデミック・ジャパニーズ,学士力早稲田日本語教育実践研究 第 9 号   キーワード: アカデミック・コンピテンシー,キャリア教育・支援,文献調査,ア19 世紀ドイツ以来のフンボルト的大学観は日本の大学のあり方に大きな影響を与えてきたとされる(金子 2009)。そのため,主として少数エリートに対する教育を想定し,各専門分野の研究者による研究成果の披瀝が最高の大学教育であるとする考え方が根強かった。一方,現代社会においては,大学が担うべき使命として,公開講座や産学官連携等を通じた社会的貢献など,以前よりも社会に開かれた役割への期待も高まりつつある。いくつもの時代的要望に応えるべく,既に多くの大学において学びの再定義と教育の再構築への取り組みが開始されている。では,大学の本来的な使命である「教育と研究」は,今後どのように再定義・再構築されるべきなのだろうか。その主軸の一つとなるのが「大学の国際化」である。大学の国際化に関しては,留学政策や教員養成,教育課程の変革など様々な観点から論ずることができるが,本稿では,日本の大学の国際化を支え,牽引する日本語教育,世界中から多様な人材を獲得し,育成するための日本語教育に焦点をあて,考察を行うこととする。現在,日本の大学における「教育と研究」の場面,すなわちアカデミックな場面には多様な言語的・文化的背景を持つ日本語話者が参加・参画している。社会的諸状況から,今後この傾向はますます顕著になると予測される。例えば,早稲田大学の事例だけを見ても,既に 21 世紀の初頭から「Waseda Next 125」を策定し,様々な改革を遂行してきた。現在は 2032 年に向けた「Waseda Vision 150」を掲げ,学生がどのような教育・研究環境のなかで,何を身につけて自己実現を果たし,社会と世界に貢献していけるように教育・支援できるかという共通課題に対し,全学的な取り組みが推進されている。そのなかで重要なキーワードの一つが大学の国際化である。早稲田大学の国際化を志向した取り組みの一つとして,2032 年までに 1 万人の留学生受け入れを目標に掲げている点が挙げられる。以上のような学内外の状況に鑑み,執筆者らの所属機関である「日本語教育研究センター(Center for Japanese Language;以下,CJL)」では,留学生のアカデミック・キャリアおよびビジネス・キャリアを支援することを目標に,新たなコース開発に着手した。本稿では,コース開発のための第一歩として実施された文献調査の結果の一部を,アカデミック・キャリアの観点から整理し,報告する。その内容を踏まえたうえで,学内の日本語教育を一元的に担っている CJL において日本語学習者を対象とした,必要かつ実現可1.はじめに早稲田大学の日本語学習者が育むべき「アカデミック・コンピテンシー」とは何か

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