25ショート・ノート伊藤奈津美・毛利貴美・岩下智彦・沖本与子/自律学習につなげる学習リソースとしてのCan-do statementsの可能性う利点があり,学習者もその機能を理解して肯定的に捉えていたため,次の学習目標の設定に向けた学習ツールとして一定の役割を果たせると考えられた。研究課題 1 については,全体の傾向として学習者の自己評価は上昇していることが示された。しかし,一部の学習者については,学期開始時よりも終了時の方が自己評価に低下がみられるという結果も示された。インタビューの結果,「学期開始時に CDS で示される状況の経験がなかったこと」,「終了時に自分の能力をより客観視できるようになっていたこと」が主な理由として挙げられる。また,学期開始時と終了時の 2 回 CDS 調査に回答することで,1 学期間の自己評価の変化が可視化され,「できること」が増えていることが,自己効力感の上昇をもたらし,学習への動機づけを高めるということが示唆された。さらに,研究課題 2 については,調査協力者は実際にインタビューの中で,CDS の具体的な記述内容に関連する形で,履修したクラスの学習状況や日常生活での学習方法に言及しており,こういった過程で CDS が自分の能力を客観視するツールとなり,弱点の把握とともに CDS が具体的な学習目標として機能する可能性が示された。このような CDSの機能を利用し,教師や他者が CDS への回答結果を見ることで学習者にアドバイスするなど学習支援のリソースとして活用することもできるであろう。こうした CDS の効果は,日本語教育機関において本研究で使用した CDS に関しても,学期開始時と終了時に継続して使用することにより,CDS の利点(吉島・大島訳編 2004)が確認された。本調査の結果からは,CDS が自律学習を支援するリソースとなり得ることが示唆された。しかしながら,本研究グループが行った別のアンケート調査の結果(高橋他 2017)からは,中級レベルより上級前半レベルの学習者のほうが自律的にレベル判断のためのリソースを選択するなど偏りが見られた。今回の調査では,中上級から上級前半レベルに到達した学習者を中心にインタビューを行ったことから,全レベルの学習者が CDS の結果やフィードバックシートを自律的に学習リソースとして活用できるかは言い切れない側面もある。そのため,本調査では,今後,量的調査,質的調査ともに調査対象レベルを広げ,初級・初中級の学習者にとっても自律的な学習を促進させる学習支援リソースとして参考文献今井新悟(2009)「J-CAT(Japanese computerized adaptive test)の得点と Can-do スコアの関連づけ」 『ヨーロッパ日本語教育 14 第 14 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム報告論文集』140-147.岩下智彦・沖本与子・高橋雅子・伊藤奈津美・毛利貴美(2016)「Can-do statement を用いたセンター学習者の自己評価―総合日本語 4・5・6 レベルを対象とした調査報告―」『早稲田日本5.考察とまとめCDS が自律学習を促進するツールとなり得ることを示しているのではないだろうか。6.今後の課題CDS が機能するのか探り,CDS を含めた自律学習支援システムの構築を目指す。
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