22早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/19―264-2.学期開始時と終了時の自己評価の変化まず,学期開始時と終了時の各 CDS の結果の全体が見えるように印刷して調査協力者に見せ,2 回目の CDS 調査で「自己評価が伸びた CDS 項目」および「自己評価が下がった CDS 項目」を明確にし,その理由についてインタビューを行った。その結果,特に自己評価が下がった理由として,以下の 2 点に関する複数の回答が得られた。(1)CDS に書かれている状況の経験がなかった S9 : 母国では CDS に書いてあることをしたことがなかったので,学期開始時に自分の能力を想像して選んだ。 S13: レポートを書いた経験がなかったが,このクラスに入ってレポートを書き始めてから,自分ができないことが多くあることがわかった。(2)学期開始時の過大な自己評価 S6 : 学期開始時は書くことが簡単にできると思っていたが,今はもっと難しい文法や単語を使うから難しくなった。 S13: 自分の判断の基準,評価の基準が変わった。自分にもっと厳しくなったと感じる。(1)のように,経験のない言語行動については,調査協力者 S9,S13 は第 1 回目の学期開始時には適切に自己評価ができていなかったことが示唆された。これは鹿嶋他(2011)でも述べられているように CDS に記述された経験の有無が CDS による自己評価に影響を与えていると考えられる。また,(2)の S6, S13 のコメントにあるように過去の経験の有無にかかわらず,実際に学期中に CDS にかかわる言語行動に取り組んだ結果,想像したようなパフォーマンスが示せないということを経験し,それが自己評価の基準を変化させるきっかけになったことが推測される。このように CDS を学期開始後と終了後の 2 回行うことで,メタ認知的に自己の行動や能力を評価する視点を得た調査対象者がいたことがわかった。4-3.CDS は自律学習の支援ツールになり得るか次に,学期開始時と終了時の 2 回の CDS 調査への回答が CEFR の目的の一つである自律学習を促進する要因となり得るのか,インタビューを分析した結果について述べる。(1)学習者自身の日本語能力を客観視できる S4 : CDS を受けると,自分が日本語で何ができるか,何をしたかを考えることができる。 S5 : 前は生活とか体験についてはどの程度できるかわかっていなかったが,今ははっきりと「自分がこの辺までできる」「自分がどの場所にいるか」ということがわかった。
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