20早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/19―26日本語教育における CDS に関する研究には,日本語教育機関の日本語レベル設定に関する情報や客観テストとの関連性の提示,複数の教育機関の対応づけなど様々な先行研究がある(今井 2009,島田他 2006,2009)。鈴木(2015)は CDS 調査の結果,コース開始時と終了時の比較から,コース終了時に多くのレベルで有意に自己評価が上がっていたことを報告している。このように日本語教育における CDS の先行研究は,主に量的データを扱い CDS の妥当性や CDS を用いたレベル設定の妥当性を明らかにすることを目的としたものが中心であった。また,毛利・古川(2014)の研究では,学期開始時と学期終了時に J-CAT と CDS によるプレースメントを実施し,インタビューを行った結果,プレースメントの結果に対する肯定的なコメントが多かったことから,客観的基準(J-CAT)だけでなく自己評価(CDS)を組み入れることで妥当性のあるクラス配置の実現が可能であると述べている。しかしながら,CDS に関して学習者の自己評価の変化に焦点を当てた縦断的な質的調査は,管見の限り見られず,十分な検証がなされているとはいえないのが現状である。このように日本語教育における CDS 研究は,主に量的データを扱い CDS の妥当性や少ない。しかしながら,CDS に関して学習者の自己評価の変化に焦点を当てた縦断的な質的調査は,管見の限り見られず,十分な検証がなされているとはいえないのが現状である。そこで本研究では,以下の二つの研究課題を明らかにすることを目的とした。研究課題 1 では,学期開始時と学期終了時の CDS 調査の結果を比較し,調査協力者の日本語能力推定値に伸びが見られるのかを縦断的な量的データから明らかにする。研究課題 2 では,CEFR の目的のひとつである自律学習が CDS に答えることで促進されるのかをインタビュー調査の結果から質的に分析することとした。3-1.調査概要本研究では,CJL の総合日本語 4(中級後半:以下,総合 4),総合日本語 5(中上級:以下,総合 5),総合日本語 6(上級前半:以下,総合 6)を履修する日本語学習者を対象として調査協力者を募り,同意を得たうえで CDS を用いた調査を行った。本研究では,岩下他(2016),沖本他(2017)の研究・分析により一定の妥当性が示されたと報告された CDS(7 件法)を使用した。すべての文章に中国語と英語の翻訳文を併記した。教示文に「以下の質問を読んで自分にあてはまるものを選んでください」と記述し,7 件法で「問題なくできる」から「全然できない」の中からあてはまるものを選ぶこととした。調査はオンラインのアンケートツール「Surveymonkey」を用いて,2016 年度春学期に行い,開始時 156 名,終了時 103 名の有効回答を得た。そのうち,開始時と終了時の回答が同定できた 79 名を分析の対象とした。2.先行研究CDS を用いたレベル設定の妥当性を明らかにすることを目的としており,またその数も3.学期開始時と終了時における CDS 調査
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