19ショート・ノート伊藤 奈津美・毛利 貴美・岩下 智彦・沖本 与子早稲田日本語教育実践研究 第 9 号 本研究は,CEFR の目的の一つである自律学習を促進するための学習リソースとしての Can-do statements(以下 CDS)の可能性について,次の 2 つの研究課題から検討を行った。研究課題 1 では,CDS 調査を学期開始時と終了時に実施した結果を比較し,調査協力者の自己評価に伸びが見られるのかを明らかにした。分析の結果,いずれのレベルの学習者も自己評価が上昇していることが示された。研究課題 2 では,調査協力者に学期開始時と終了時の各 CDS への回答結果を示し,調査協力者がその結果をどのように意識していたかについてインタビュー調査を行い,分析した。その結果から,自分の能力を評価し,次の目標や計画を設定するための支援ツールとしての機能が見られた。以上の点から,CDS が自律学習につなげる学習リソースとなる可能性が示唆された。 キーワード: Can-do statements,自律学習,自己評価,学習リソース早稲田大学日本語教育研究センター(以下 CJL)では,学習者の多様性・主体性を重んじ,学習者自身が日本語レベルを判断し,科目を選択している。そのため,学習者は自分の能力を評価し,目標や計画を設定する自律学習能力を身につけることが望まれる。筆者らは学習者がより主体的に日本語のレベルを判定し,自律的に学習を進めるための新たな指標として,Can-do statements(以下 CDS)が活用できるのではないかと考えた。CDSはヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages:評議会が作成した外国語の学習・教授・評価のための枠組みであり,目的の一つとして自律的な学習の計画がある(吉島・大島訳編 2004)。その能力記述文である CDS には学習者が①現時点の知識の実情を認識できる,②到達可能な目標の設定ができる,③教材を選択できる,④自己評価できる,という利点があるという。このような利点は,CJL のように学習者が自分の能力を評価し,目標や計画を設定する自律学習能力を身につけることが望まれる環境では,特に効果を発揮するのではないかと考えられる。―学習者への意識調査の結果から―要旨1.はじめにCEFR)の自己評価のための能力記述文である。このヨーロッパ言語共通参照枠は,欧州自律学習につなげる学習リソースとしてのCan-do statements の可能性
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