8早稲田日本語教育実践研究 第9号/2021/3―10JLPT 対策をはじめ学習に特化した催しが多かったが,2020 年度に関しては,日本社会,しかし,学内情報システムや LMS を活用した広報活動,およびオンライン授業下でも例年通り実施した「JLPT 支援セミナー」等のイベントの効果があり,6 月に入るとようやく来訪者が訪れるようになった。数は少なかったが,1 週間に何度も来訪する「リピーター」の割合が高くなった。オンライン授業によってクラスメイトとの関係性が希薄になった留学生の中には,スタッフと話すことで癒されているような者もいた。このような利用の仕方は,機関の目的とはややずれるものの,混迷した環境下で不安に苛まれている留学生にとっては必要な支援であり,かつ日本語学習の場にもなっていたため,スタッフ一同,留学生が安心して相談したり話したりできる環境づくりを心掛けるようにした。このようなスタッフの姿勢は,セミナーやイベントにも反映されている。それまでは文化,芸術,芸能等多岐にわたるテーマで「ランチタイム・セッション」や「夜祭」を行い,留学生の趣味や興味を通した広い意味での日本語学習を支援するようになった。また,スタッフとともに留学生同志が日本語で自由に雑談や情報交換を行える場も設けた。日本語支援の射程の拡大には 3 つの意味があると考える。1 点目は,留学生の日本語学習の幅を広げ,多視点から日本語学習の可能性を認識してもらうためである。ここには「わせだ日本語サポート」が留学生に多様な学びを提供することを通して,より開かれた場になりうるという意味もある。また,2 点目は,オンライン学習環境下で留学生の日本語学習のモチベーションを維持したり高めたりするためである。さらに 3 点目は,日本語教育を専門としていないスタッフにも留学生支援に対する自信を持ってもらうためである。スタッフの専門分野の多様性は好ましいが,日本語教育を専攻していないスタッフにはそれが負い目になりうる。多様なテーマで行った「ランチタイム・セッション」は,様々な観点から留学生の日本語自律学習支援ができることを認識する良い機会になったと言える。秋学期は春学期に生じた問題点を改善したことでアドバイジング・セッションもより効率的にできるようになり,オンラインによるセミナーやイベントも定着した。留学生の減少に伴い来訪者数は伸び悩んだが,2020 年度を通して「オンライン・わせだ日本語サポート」を細々ながら開設した意味は大きい。1 点目は,オンラインでのセッションを実現できたという点である。今後,学習環境が平常化すれば,対面のセッションに戻るだろうが,オンラインというチャンネルが増えたことによって,国内外の遠隔地にいる留学生にもアクセスすることができるようになった。早稲田大学に在籍するより広範な留学生のサポートが可能になったと言える。また,2 点目は,不安定な学習環境下で日本語学習を続ける留学生に少しでも寄り添えたということである。「わせだ日本語サポート」を頻繁に利用していた留学生 2 名の声をここに挙げる。「今学期,「わせだ日本語サポート」を通じて効果的な日本語の学習ができました。2020年に日本語を学び始めましたが,ずっと外国に住んでいたので,日本語の勉強をうまく続けられるかどうか少し心配でした。でも,秋学期に「わせだ日本語サポート」をもっと積極的に活用して,多くの助けを受けることができました。この機会を通じて,大学の授業で習ったことだけでなく,自分が読みたい文を中心に発音練習をしたり,漢字の読み方を
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