早稲田日本語教育実践研究 第8号
9/120

5センター最前線―日本語初級 e-learning 教材“Steps in Japanese for Beginners”の開発―1.開発の背景“Steps in Japanese for Beginners”(以下,SJB; https://www.edx. org/school/wasedax)を開発し,MOOCs(Massive Open Online Courses;大規模公開オンライン講座)のプラットフォームの一つである edX1)に講座を設けた背景には,先に述べた初級の日本語学習者の増加に加え,日本語学習者の日本語学習目的の多様化がある。中でも,英語学位プログラムの日本日本語教育研究センター 木下 直子早稲田日本語教育実践研究 第 8 号 早稲田大学の中長期目標「Vision150」では,大学創立 150 年目にあたる 2032 年に留学生数を 1 万人にすることが掲げられているが,留学生数は 2019 年 5 月現在,6,124 名にのぼり,増加の一途をたどっている(早稲田大学留学生センター 2019)。中でも初級の日本語学習者層が急増しており,そのきっかけとなったのが,英語学位プログラムの増設である。早稲田キャンパスの国際教養学部をはじめ,政治経済学部,社会科学部,文化構想学部と,西早稲田キャンパスの理工学術院 3 学部(基幹理工学部,創造理工学部,先進理工学部)の 7 学部で英語学位プログラムが実施され,日本語が必修科目とされている。早稲田大学日本語教育研究センター(Center for Japanese Language, Waseda University: 以下 CJL)は,全学の日本語教育を一元的に担っている。今回日本語初級 e-learning 教材 語学習者が求める学習目的が日本語学位プログラムの学習者と異なり(佐野ほか 2019a),中級程度の日本語会話の習得を日本語学習の最終目標にする学習者が少なくない。それに対して,CJL の既存の初級学習者対象科目「総合日本語 1」は,週 5 コマ提供科目で進度も速く,必ずしも英語学位プログラムの学習者のニーズに合わせられているとは言い難い。そこで,日本語講座の開講数が限られている edX に SJB を提供し(木下 2017),そのコンテンツを活用したブレンデッド・コースを検討した。今後,CJL でブレンデッド・コースを展開することにより,学習者の学習目的や学習スタイルの多様性,学習者の地理的・時間的制約,学習者数の急増に対する教員不足に対応でき,さらにはインクルーシブ教育に向けた支援としても貢献できると考える。本稿では,日本語学習者にとってインターネットの環境さえあれば,いつでもどこでも無料で受講が可能であり,日本語を教える教員にとっても動画コンテンツなどが部分的に利用可能な初級日本語 e-learning 教材,SJB のコンセプトとコンテンツを紹介するとともに,2019 年度秋学期に edX で開講した SJB のコース運営・実践,理工学術院のブレンデッド・ラーニングを取り入れた「Japanese1 (1)」のコース運営・実践,さらに両者の学習効果を高めるブレンデッド・ラーニングの導入を目指して

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る