早稲田日本語教育実践研究 第8号
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早稲田日本語教育実践研究 第8号/2020/65―66 3.個と協働のバランスBut teacher’s class I can use it very well」という記述も,クラスという環境ならではの学び66あり,授業設計を見直す契機となった。 「グループワークが多すぎる」という評価は,その活動の意義が感じられないことに起因すると考察した。クラスメートとの協働の学びという機会をどう活かせるかを考えても,その意義や効果が感じられなければ意味がない。そこで次の学期からは,なぜ協働か,なぜ個か,あるはなぜクラス全体で行うのかについて,各回の学習目標に沿って狙いを明確にし,学生に示せるようにした。 漢語の語構成を学ぶ 6 課では,漢語と和語について学ぶ項目がある。漢語と和語は変換可能な語ではなく,使い分けがあることは,個々がそれなりに理解しているであろうし,使い分けているであろう。しかし例えば「ひるごはん/昼ご飯/昼食/ランチ」のニュアンスが異なることについて,独り辞書で納得出来るものだろうか。その使い分けにルールがあるわけではないが,このレベルの学習者であれば,それなりにそのニュアンスに違いがあることを認識している。クラスでは,誰と何処でどのような状況の場合が「ひるごはん/昼ご飯/昼食/ランチ」なのかを全体で意見交換することによって,自分の認識を振り返り,新たにする様子が見られた。また,漢語の読み取りについては,直近の記事を用いてみると,意味取りに困難はないことがわかるが,語構成については個人的には流される可能性があると考えた。そこで,どのような語構成であるかを共に考え,構成を知ることが日本語でのコミュニケーションに資することを実感できるよう授業設計した。 また,10 課の「発達/進歩/発展」のような類義語の使い分けは,独りで辞書片手に記憶するだけでは,なかなか使用語彙として身につけるのが難しい項目であると考えられる。これについてクラスメートと協働で,使い分けが明らかになる語とのコロケーションを考える活動では,互いの異見や指摘,同意によって研がれていく様子が見られた。 他にも,語彙マップを書くという課題は宿題として独りで行うが,それをクラスで他者に向かって解説することで何が生まれるのか等,独りの作業の意義と,協働で生まれるものの意義を共有した上で,学びの基本を授業設計の基礎として明確に認識することを,クラス担当として深く意識した。 このような取り組みの結果として,学生授業アンケートでは「皆と一緒に漢字を学ぶのを楽しんでいました」「活動は特に役に立った」というように,協働の効果が記述されるようになった。また,「I’ve learnt Kanji usage in context」「Kanji is sometimes difficult to me があったということであろうと考えられる。 個の学びと協働の学びを,履修者それぞれがバランスよく活かせるよう,今後ともコミュニケーションを密にしながら図っていきたい。(さいとう さとみ,早稲田大学日本語教育研究センター)

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