早稲田日本語教育実践研究 第8号
64/120

早稲田日本語教育実践研究 第8号/2020/59―60 4.実践の成果と課題60説明を聞いた後に必ずコメントをすることをお願いした。 自分のマップに「テーマ」をつけて「今回は○○の関連で繋げてみた」とか,「○○さんの語彙マップは,いつもアニメに関係ある言葉になる」などのコメントがされるようになり,回を重ねるごとに一人一人の個性が見えてきた。 さらに,各課のテーマに関連して漢字や熟語をグループ分けしたり,反対語や意味の対応ペアを作ったり,同音や類義の漢字を集めたりと,教師からの「お題」に取り組んだものをグループで共有したり,その場で一緒に取り組んでもらったりした。3-2.短作文 この活動の目的は,習った漢字を 1 文レベルではなく,文章の中で適切に使えるようになることである。課の「学習漢字」の中から 2 つ以上を使って短い作文をして,次回の授業で提出することになっている。宿題として書いてきた短作文を 3 〜 4 人のグループで回し読み,読んだら必ず短文を書いた本人にコメントをすることにした。 始めは辞書の例文をそのまま写したようなものが多かったが,その中で,自分で考えて書いたと思われる文を全体で取り上げ,このように自分の言葉で文を作ってほしいと伝えたところ,少しずつ個性豊かなオリジナルの文が増えた。教師だけでなく他の学習者の目を意識したことで字形などにも気を配るようになることも期待した。回を追うごとに,学習者同士の関係も変化し,それぞれの個性が滲み出る面白い内容の文になり,最終回では8 割以上の人が学習漢字を 10 個以上使って 6 行の罫線いっぱいに例文を書いていた。他の学習者が実際にどのようにターゲットの言葉を文の中で使っているのかを目の当たりにし,文の内容だけでなく文中での言葉の選択や使い方に関して確認しあうグループも見られた。「先生,○○さんの作文おもしろい!」と教師に声をかけてくる学習者もいた。 学習者同士の協働による活動を行ったことで,単調になりがちな漢字の授業に対するモチベーションをいくらか上げることができた。また,各自の学習を持ち寄り共有したことで新しい気づきを得たという点では,有益であったと言える。漢字を覚え語彙を増やしていくのはとても個人的な作業であるが,クラスでは,一人一人が自分なりの学習方法を見つけ,自分に必要な漢字の語彙を自律的に増やしていくための支援の場を提供したい。 しかし一方で,漢字の授業に協働を期待していなかった学習者もいたに違いない。毎回すべてのグループで活発なやりとりがされていたわけではなく,教師に指示されたことを淡々とこなしているように見えるグループもあった。学習者がクラス授業に期待していることや学習スタイルはさまざまである。今後は,そのような学習者にも興味をもって積極的に参加してもらえるように工夫を重ねて,気づきの多い活動を探っていきたい。(とんしょ みつえ,早稲田大学日本語教育研究センター)

元のページ  ../index.html#64

このブックを見る