早稲田日本語教育実践研究 第8号/2020/57―58 3.言葉集め4.考察58教師が最初の一文目「去年,私は結婚した。」を指定し,そこからペアで「面白いストーリーを作る」という指示を出すと,どのペアもよく協力して創作的なストーリーを書き上げることができた。日常的には使用が低いと思われる漢字 (例 : 吉) でも「その結婚は不吉な結婚だった。」のように文章中にうまく取り入れ,学習した漢字を積極的に使おうとする姿が見られた。発表の際は,各ペアのユーモアのあるストーリー展開にクラスメートから笑いが出ていた。この活動では,普段ペア活動に消極的な学習者にも積極性が見え,印象的であった。 短作文以外の活動では,その課で学習した漢字に関連する様々な語彙を知ってもらおうと「言葉集め」活動を行なった。 一例として 30 課(「飛 機 失 鉄 速 遅 駐 泊 船 座 席 島 陸 港 橋 交」)では,ペア活動として,出身国や日本,世界の「島」「港」「橋」「大陸」探しをし,見つけた言葉をワークシートに書き込んでもらった。最後にクラス全体で探した言葉を出し合い,交通や地理で必要になる漢字語彙を学んだ。 31 課では「星」を使う漢字語彙を集める目的で,自作の絵を加えたワークシートを使い「太陽系惑星」の名称を集めた。既習の漢字(曜日の漢字)に新しい漢字を 1 つ組み合わせるだけで,「水星 金星 木星…」のように,語彙を増やせるということを知ってもらい,漢字語彙の学び方のヒントになればと考えた。 授業内での短作文づくりは,創作力のある学習者にとっては楽しい活動のようで,新出漢字だけでなく,既習漢字も思い出しながら,漢字のたくさん入った文を書き上げていた。一方,なかなか最初の一文が思いつかないために,頭を抱えてしまう学習者もいたため,今後は作文の得手不得手に配慮した内容を検討する必要があると感じた。言葉集めに関しては,創作性は必要なく,どの学習者も同程度に完成させることができたが,答えを書くことがゴールになってしまう傾向が見られたため,言葉集めを通して,さらにそれらの語彙を利用していく活動へと繋げていくことが今後の課題であろう。参考文献坂野永理・池田庸子・品川恭子・田嶋香織・渡嘉敷恭子(2009)『KANJI LOOK AND LEARN』The Japan Times.(さとう みずえ,早稲田大学日本語教育研究センター)
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