早稲田日本語教育実践研究 第8号
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早稲田日本語教育実践研究 第8号/2020/55―56 3.今後の課題56で使用する。教科書の「対象とねらい」には,「主に非漢字圏の学習者を対象に,初級〜中級レベルの漢字 512 字の形と意味を,イラストとストーリーを使って無理なく楽しく覚えられるようにした教材」(p.8)と記載されている。512 字の漢字が 1 課 16 字ずつ,能力試験 N5 レベル相当の Part 1 から N3 相当の Part 3 まで段階的に導入されており,担当クラスは 1 学期間で Part 3(21 課〜 32 課)の 192 字を学習する。2-3.書くことを意識した活動 90 分の授業内には毎回約 10 分間の小テストがあるが,それ以外の時間は単元毎の漢字を学習するために自由に使うことができる。漢字の意味や使用については,象形文字やストーリーを示したイラストによる漢字の意味の理解から始まり,その漢字を使った語彙の理解,短文による場面の理解,文章の文脈での意味の確認という流れで進めていく。このような意味の理解には教科書とワークブックを使用し,解説,朗読,質問などを交えながら会話方式で理解の確認を行っているが,この中にどのように書く練習を取り入れていくかが当初の課題であった。ワークブックには各漢字に練習用のマスが 5 つずつ設けられ,薄く書かれた漢字をなぞることもできる。また,漢字の穴埋め問題には学習した語彙が文中に組み込まれており,漢字の書き方と読み方が練習できる。しかし,どちらも自主学習として自宅で活用できるものである。 そこで導入したのが原稿用紙を使用した書き取り練習である。原稿用紙はマスにより文字のバランスを見ることができるだけでなく,行と行の間に余白があるため,漢字と読み方の両方を書かせることができる。テスト等では読み方の誤答も多いため,読み方まで書いて練習させる必要がある。教科書の語彙を読ませた後,その語彙の漢字とふりがなをすぐに用紙に書かせている。 この方法を導入してから読み方の誤答が少なくなった。また,授業を進める中で指示をしなくても自主的に何度も書こうとする姿が見られるようになり,学生が書いて練習する習慣を身に付けることができたと実感している。 漢字の授業は読み書きの時間が多く,学生間のコミュニケーションの機会が少ない。学期を通して「語彙マップ」と「短作文」の提出が 3 回ずつ課せられており,それらを活用してペアやグループで紹介し合うというのが学生間コミュニケーションの唯一の機会となっている。単独学習になりがちな漢字の授業に学生間の会話を取り入れ,いかに楽しくしていくかが今後の課題である。参考文献坂野永理他(2009)『KANJI LOOK AND LEARN』ジャパンタイムズ坂野永理他(2009)『KANJI LOOK AND LEARN ワークブック』ジャパンタイムズ(まつうら みちよ,早稲田大学日本語教育研究センター)

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