早稲田日本語教育実践研究 第8号
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注早稲田日本語教育実践研究 第8号/2020/53―54 白いと感じるのか等の理由を述べる。また,漢字系 2 ではテーマに基づいた漢字語彙を 5つ選んで,漢字系 1 と同様にそれらを選んだ理由を述べる。発表では,学習者が日本語の初級レベルであることから,選択した漢字の言葉や漢字の読み方(音読み・訓読み),意味等について教師がフィードバックし,それに基づいて学習者が PPT を作成し,簡単な日本語で発表する。発表後,クラスメートや教師と質疑応答を行うが,学習者からは日本語の漢字の学びが深まったという意見が多かった。 「個人発表」の活動について調査したところ,日本語の漢字や漢字語彙に対する学習者自らの気づきが見られることが分かった。水上他(2018)では,漢字系 1 の学習者が漢字語彙を選択する際の視点に焦点を当て分析した結果,学習者は,「日本語の漢字が中国語の意味と異なる」,「中国語にはない」,「漢字を見ても意味の推測が難しい」などの視点で漢字を選んでいることが明らかとなった。また,吉田他(2018)では,漢字系 1 と非漢字系 1 の語彙選択の視点を比較した結果,漢字系の学習者は漢字を見て大体の意味を推測し,日本語の漢字の読み方を理解することに重点を置くが,非漢字系の学習者は日常的に見る漢字に興味を持ち,その知識を役に立てたいという視点で漢字を選んでいることが分かった。さらに,水上他(2019)では,漢字系 1 と漢字系 2 を比較した結果,レベルの違いによって学習者の漢字に対する視点の幅が広がり,漢字系 2 では漢字語彙への注目に留まらず,漢字語彙の背景にある文化や歴史などを知ろうと,漢字系 1 に比べ,より深く漢字語彙を学習する姿勢が見られた。 以上のように,「個人発表」の活動に関する調査から,学習者の漢字に関する視点や気づきを知ることができ,本活動に効果があると感じた。今後も,活動の成果をより有効な漢字教育と学習者の自律的学習へとつなげられるよう活用していきたい。  1) 坂 野 永 理・ 池 田 庸 子・ 品 川 恭 子・ 田 嶋 香 織・ 渡 嘉 敷 恭 子(2009)『KANJI LOOK AND LEARN』The Japan Times.参考文献水上弘子・吉田好美・松井一美(2018)「初級レベルの中国語話者日本語学習者が興味を持つ日本語漢字語彙の特徴―漢字クラスの発表活動を通して―」『中国語話者のための日本語教育研究会第 41 回研究会』水上弘子・吉田好美・松井一美(2019)「初級レベルの漢字圏学習者が興味を持つ日本語漢字語彙―漢字クラスの発表トピックより―」『異文化コミュニケーションと漢日比較シンポジウム予稿集』34吉田好美・水上弘子・松井一美(2018)「漢字クラスの活動における漢字語彙選択の視点―漢字圏/非漢字圏学習者の比較―」『第 12 回国際日本語教育及び日本研究シンポジウム予稿集』684.「個人発表」の活動から見えたもの54(みずかみ ひろこ,早稲田大学日本語教育研究センター)

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