―非漢字系初級レベルの実践の紹介―1.実践フィールドの紹介2.なぜ漢字語彙の意味推測を重んじるのか実践紹介49劉 羅麟早稲田日本語教育実践研究 第 8 号 科目名:漢字(非漢字系)1 レベル:初級 1 ・2 /中級 3・4・5 /上級 6・7・8 履修者数:17 名 筆者は早稲田大学日本語教育研究センター(以下,CJL)で「漢字(非漢字系)1」という科目を担当している。履修者の多くは,欧米やアフリカ諸国出身で,漢字の学習・使用経験が殆どなく,日本語力自体も入門から初級レベルである。また,毎学期 1 週目のオリエンテーションで実施するアンケートからは,日常生活でよく見かける漢字を読めるようになりたいという受講動機が多いと感じる。授業では『KANJI LOOK AND LEARN』を用い,第 1 〜 10 課の 160 の漢字およびその関連語彙を学習内容とする。 本科目を担当するようになった当初,筆者は漢字の読み書きの練習を中心に授業を進めていた。週 1 回 90 分の授業では,各課の新出漢字の読み方や意味を確認した後,筆順を一画一画強調しながら板書していた。しかし,学期末の振り返りシートに,以下のようなコメントがあった(紙幅の都合上,代表的な一例のみ紹介する)。 「一学期を通していろんな漢字が読めるようになった。友達と出かける時,看板の漢字が読めて友達にすごいと言われて嬉しかった。でも私は一つ一つの漢字が読めても,その言葉全体の意味がわからなかった。」(原文は英語,筆者訳。) このように,学習者は読める漢字が増え喜ぶ一方,個々の漢字よりも複数の漢字からなる漢字語彙に困難を感じているようである。無論,CJL の「漢字」科目では,個々の漢字だけではなく,漢字語彙の学習も到達目標としている。ただ,授業の回数を重ねるにつれ学習する語彙は増えるものの,授業で学習できる数には限界がある。 漢字は表意文字であり,個々の漢字にはそれぞれ意味が付与されている。漢字語彙は個々の漢字による組み合わせであるため,語彙全体の意味は個々の漢字の意味からある程度推測できる。そこで筆者は,漢字授業において,漢字語彙の意味推測の力(以下,推測力)も意識して育成すべきなのではないかと考えるようになった。そして,初級レベルの授業であっても,シラバスを超えない範囲で,推測力の育成が可能なのではないかと考えるようになった。漢字語彙の意味推測を重んじた漢字授業
元のページ ../index.html#53