早稲田日本語教育実践研究 第8号
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―日本語の表記の面白さを知る試み―1.はじめに2.授業概要と課題47山田 京子早稲田日本語教育実践研究 第 8 号   科目名:メディアを使った漢字学習 5-6  レベル:初級 1・2 /中級 3・4・ 5 /上級 6 ・7・8   履修者数:35 名 日本語は,漢字,ひらがな,カタカナの 3 つの表記体系だけでなく,ローマ字やアラビア数字などで表される。一般的な漢字仮名交じり文には,表記方法にルールがある。漢字,カタカナは実質的な意味を表す部分に用い,ひらがなは形式的な要素を表すとされる。多くの学習者は,来日前には,自国でこのようなルールに従った表記方法を学び,漢字仮名交じり文に接している。ところが,日本に来るとそのルールとは異なる表記を数多く目にすることになる。しかし,なぜそのように表記されているのか,その理由を知る機会は多くない。そこで,授業では一般的に漢字を使うべきところに,漢字が使われていない例,また,漢字の読み仮名が常用の読み方ではなく,本来の意味とも異なる例を収集,分析するという課題に取り組んだ。その上で,「漢字を使うことで得られること」,「漢字を使わないことで失ったこと」,「漢字を使わないことで得られること」を考え,日本に住む日本語母語話者が日ごろ持っている表記に対する感覚を感じてもらうことにした。 授業では,新聞,テレビニュース,バラエティ番組などを使用し,テーマに沿った漢字を学習している。表記に対する感覚を知る課題については,授業の後半 6 回を使用して実施している。学生は,学期の前半にそれぞれ,漢字を使うべき表記が,ひらがな,カタカナ,ローマ字になっている例,および,漢字のルビが常用とは異なるものを収集して提出する。大学構内を歩いていると目にする看板,配られるチラシ,ポスティングで届けられたメニュー,ファッション誌の記事,市報,駅で見かけたサイン,商品のパッケージ,マンガや小説のセリフなど学生が提出してくる例は,まさに日本での生活で日常目にするものばかりで,逆に母国ではなかなか見ることができないものである。一人 1 例以上集めることになっているが,10 近い例を集めてくる学生も多い。その後,5 〜 6 人のグループに分かれ,用例を検討し,漢字,ひらがな,カタカナ,ローマ字がどのように使われているかを分析,グループで発表の後,レポートにまとめる。実践紹介漢字を使うということ,漢字を使わないということ

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