早稲田日本語教育実践研究 第8号/2020/45―46 4.学生の反応5.今後の課題46ている簡体字をペアで探すというものである。漢字未習者の学生は漢字が殆ど読めない段階だが,形の認識ができればこのタスクに十分参加できる。 2 つ目は,2 回行うプレゼンテーションである。1 回目は「数字の入ったことわざ」について小グループ内で,2 回目は「私の好きな漢字」についてクラス全体の前で発表する。いずれも,漢字混じりのモデルスクリプトをペアで読むことから始め,発表後には質問やコメントをし合うようにしている。 3 つ目は,第 14 週または 15 週に行う,漢字のストーリー作りである。テキストの後半では,「政治」「問題」「研究」など,画数が多く,1 〜 2 つの漢字熟語にしか使わない字が増えてくる。このような覚えにくい字を覚えるためのアイディアを,グループで 3 字分,イラストと短文で作成する。例えば,「治」を担当したグループは「政治家がお台場の汚い水についてディスカッションします」というストーリーを作った。字全体を絵で捉えたグループもあり,「題」では「是」を足を伸ばして座る人に,「頁」を座卓とデスクライトに見立て,「毎日机の前に座ってライトの下で宿題をします」というストーリーを作ったグループがあった。その後,グループを組み替えて,考案したストーリーのカードを見せ合い,紹介する。 以上のように,毎回の授業で,大小の話す活動を取り入れている。 学生は,話す活動の際,概ね協力的に,楽しんでタスクに取り組んでいるようだ。ペアワークにも熱心で,非漢字圏・漢字圏,既習・未習にかかわらず,相手に質問したり,気づいたことを伝えたりする様子が見られる。 学期末のコース評価では,「いろいろな練習があって良かった」「漢字に関する知識が増えた」「隣の人と話して,リラックスして授業を受けられた」「初めて日本語で発表できた」などの意見があった。一方で,「筆順を学びたかった」「正しいきれいな書き方を勉強したい」など,書きの練習を求める声も毎学期聞かれる。 今後は,現在行っている活動を改善しつつ,学習歴の短い非漢字圏の学生のニーズに対応することと,より創造力が要求される課題解決タスクを取り入れることを課題としたい。中級レベルまで進んだ非漢字圏学習者の話によれば,漢字の習得には,字をイメージで覚えたり,何度も見て手で書いて覚えたりといったストラテジーが必要だという。漢字のイメージを何らかの作品にして制作する,教育ツールを活用して書く練習をペアでするなど,クラスで実現できそうな活動を考えていきたい。(きくち ふみこ,早稲田大学日本語教育研究センター)
元のページ ../index.html#50