早稲田日本語教育実践研究 第8号
5/120

1巻頭エッセイ国際部長 リー・マージ早稲田日本語教育実践研究 第 8 号ヴォン・イゲルフェルド教授は,小説「ポルトガル語の不規則動詞」の主人公である。イゲルフェルド教授は,ポルトガル語の不規則動詞を論理的に探求するのが生涯目標である。その小説の中で恋愛は,教授の一つの冒険であった。恋愛の相手は,歯科医。教授は,自分が一番大事にしていた分厚い不規則動詞についての本をプレセントするが,彼女には無意味な物としてしか受け取れなかった。彼女の患者として数回歯医者に通うが,教授のプライベートの日常は地味そのものだった。そこで,私はフィクションの世界に入り,イゲルフェルド教授に日本語の論理性について説明する。日本語の動詞の論理性を知ったらもっと楽しい研究生活ができるかも知れないと思いながらまず日本語動詞の規則性を語る。ポルトガル語の不規則動詞とは正反対の例として日本語の動詞の特徴について説明する。日本語の動詞の語幹は変わらない。変わらない絶対的な動詞の基本形を知ってもらいたい。「行く」の動詞活用を一例として英語と比べてみる。行く −  基本形    Iku (To go)行かない  Ikanai (I am not going)行きます  Ikimasu (I am going)行くので  Ikunode (Because I am going)行けば   Ikeba (If I go)行くことに Ikukotoni (I have decided to go)「行く」の基本形の「い」の語幹は変わらない。横に書いた英語訳を見ると,英語での動詞の基本形はほとんど語幹に反映されない。日本語の動詞の語幹は固定され,そこから活用が始まる。活用の中に「あいうえお」の音節がある。これは日本語の口語文法における五段活用である。母音で終わる音節の妙味はイゲルフェルド教授を驚かせるだろう。動詞の基本形は「う」母音で終わる。活用部分が,五十音図の「あいうえお」の五つの段全部にわたって活用するものを五段活用という。「書く」をもう一つの例として挙げる。書く    Kaku (To write)書かない  Kakanai (I am not writing)日 本 語 の 世 界

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る