早稲田日本語教育実践研究 第8号
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36早稲田日本語教育実践研究 第8号/2020/29―43た。学習者たちは,テキストについて,テキスト以外の情報や知識を持ち寄りながら,その詳細を理解しようとしている。ここで扱われているのは事象としての日韓関係であるが,その検討の結果,問題は「歴史認識」にあるとされた。テキストの内容確認から「歴史認識」という問題提起が行なわれたと言える。3-1-2.グループ活動②:テキストからの問題提起をめぐってその後,クラス全体の活動の中で,テキストの重要概念として「歴史認識」が,授業担当者によって確認された。そして,これについて考えるための 4 つの問い,すなわち,「いつ,どこで,どのように歴史を学んだのか」,「誰が歴史を書いたのか」,「何のために歴史を学ぶのか」,「『歴史』を『認識』することについて考えたこと」が提示される。それらの問いに基づきながらも,具体的な議論の内容はグループによって異なる展開を見せていく。実際にグループ内で出された問いを軸にこれを追ってみよう。Q1:いつ,どこで,どのように歴史を学んだのかまず,「いつ,どこで,どのように歴史を学んだのか」の問いをスタートとして,それぞれの学習者の経験が語られる。「(国の)学校で」,「義務教育の中で」,「教科書で」などに集約される歴史の学習経験が,それぞれの置かれた環境も含めて語られている。<個人的な経験>は自分にしか知りえない自分自身のものであると考えられているのか,学習者たちが積極的に他者に説明しようとする様子がうかがえる。ただ,その内容は,「あった/起こったこと」を順番に語る経験談義である。ここでは,<個人的な経験>がそのまま紹介されている。Q2:誰が歴史を書いたのか次の「誰が歴史を書いたのか」という問いについて,「国家(時の政府)が書く」,「政権維持のため(に書く)」,「書かれるのは一部」,「歴史は勝者が決める」,「権力が決める」,「歴史って結構変わる」などの答えが続く。ここでは,歴史と国家との関係について語られていく。学習者は,歴史学習そのものの異同だけではなく,個々の歴史学習に通底するものとして,国家や時の政権の存在を読みとっている。この Q2 では,Q1 と同様に<個人的な経験>を語ることが可能であるが,Q1 で語られた学習者の経験自体を振り返らせ考えさせてもいる。ここが「歴史」を「認識」することの意味を探るための入口となっていく。Q3:国家の歴史観は個人的か(ひとの見解はそれぞれか)このグループでは,授業担当者が最初に提示した「何のために歴史を学ぶのか」の前に,Q3 として,「国家の歴史観は個人的ですか(ひとの見解はそれぞれですか)」という問いを発した学習者がいた。つまり,個人が国家と異なる歴史観を持つことが可能かどうかという問いである。Q2 で明らかになったように,国家が歴史の生成に関わってくるのならば,その国家と個人との関係はどのようなものなのかと問う。それに対して,「国に

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