3.分析の結果35論文新井久容/国際問題と<個人的な経験>を結びつける(2)同「授業記録」において,グループ活動②,すなわち「歴史認識」に関する議論について,「歴史認識」概念を考えるための 4 つの問いを中心にしてその流れを時間軸で追った。その中で,<個人的な経験>が<主体的な主張の基礎>へと転換するプロセスを明らかにしようと試みた。それに「歴史概念」という特定の問題意識(視点)がどのように関わっているのかについて考察した。(3)以上のグループ活動を念頭に置きながら,学習者エイの「コメントシート」を読んでいった。そして,学習者エイの「コメントシート」の記述の変化と「授業記録」とを突き合わせて,学習者たちの<個人的な経験>と学習者エイの記述との関連について考察した。本章では,上記の手順によって授業に関する資料を分析した結果を提示する。まず,学習者エイが参加したグループの議論について,次に,そのような議論を通して学習者エイが考えたことについて,それぞれ考察する。3-1.議論の内容3-1-1.グループ活動①:テキストをめぐってまず,グループ活動①,テキストの新聞記事自体についての議論を見てみよう。学習者エイの参加したグループは 5 名で,同じメンバーが 5 回(第 5□9 週)の報告・議論の活動をともにしている。このグループでは,まず,「徴用工」と「強制労働」との違いについて確認された。前者については,「賃金を払っていたから」という見方が示される一方,後者については,「でも(当時の日本国内での賃金の)平均より低い」,「無理やり連れて来られて,仕事をするようにされたって,そういう意味で強制労働って言っている」という見方が示されている。それは,以下の学習者の発言にまとめられる。「私もちょっと調べたんですけど…徴用するって範囲と,あと強制労働って範囲と違うって。仕事がかなりハードってあれもあるけど,ちゃんと給料が支払われていたということもあるから」。それに対して,「徴用工は,厳しい環境で働いていたことを明示してください,明示すべき」や,「(世界遺産に決まった軍艦島について)行ったらどうやって書いてあるのか,説明されているのか(心配)」と,日本政府の対応についての疑問が別の学習者から出される。最終的に,徴用工をめぐる日韓の対立は「政府の歴史認識の違いである」という問題が指摘されている。「これがむずかしいと思ったのは,国の立場によって記録される歴史が違うから,それが国民に対してわかりにくいですね。…それが対立しているから。お互いに習った歴史が違うから,理解し合うのがむずかしい」。上記をまとめると,まず,徴用工と強制労働との違いについては労働条件の違いが指摘され,そして,それが政府見解の「歴史認識」の違いそのものであり,日韓それぞれの教育現場でどのように扱われているかという歴史教育の違いでもあることが明らかにされ
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