32早稲田日本語教育実践研究 第8号/2020/29―43表 1 授業の流れ活動内容(*太字部分:「歴史認識」概念の意識づけ)・テキストの理解できない部分のチェック・テキストの重要概念を選んで議論の問いを作成・「徴用工」,「(日韓)対立」部分の下調べ 「(日韓)対立」部分=「徴用工」と「強制労働」との違い・「歴史認識」概念(4 つの問い)の導入:「いつ,どこで,どのように歴史を学んだのか」「誰が歴史を書いたのか」「何のために歴史を学ぶのか」「『歴史』を『認識』することについて考えたこと」振り返り(グループ活動・授業テーマについてコメント)分析対象とした。ここでは,学習者の知識レベルを一定にするために教科書としていた書籍 4)が絶版になったため,新たな試みとして新聞記事を用いた。世界遺産登録をめぐって日韓が対立していたが合意に至り登録が決定したという内容の記事である(「明治の産業遺産,登録決定『徴用工』表現,日韓合意 世界遺産」『朝日新聞』2015 年 7 月 6 日)。学習者には記事のリードと本文のコピーが,前の週の授業で配布されている。1 コマの授業の流れについて,下記にまとめた表を示す(表 1)。学習者は予習としてテキストを読んで理解できない箇所のチェックをし,テキストの重要概念を選んで議論の問いを考える。また,単にテキストを読むのではなく,特に「徴用工」や「(日韓)対立」ということばについて調べることを課題とした。授業は 5 名程度のグループ活動を中心としており,1 名がテキスト内容の報告をして,お互いの不明な点の確認をしながら内容の理解を深めていく(グループ活動①)。その後,クラス全体に対して,授業担当者によるテキスト内容の確認が行なわれ,その場で,「歴史認識」という概念と議論を進めるための 4 つの問い,すなわち,「いつ,どこで,どのように歴史を学んだのか」,「誰が歴史を書いたのか」,「何のために歴史を学ぶのか」,「歴史を認識することについて考えたこと」,が示された。学習者たちは,これらの問いに基づき,再びグループ毎に議論を展開していく(グループ活動②)形態授業前予習シート授業活動 グループ活動① ・テキスト内容の確認:クラス全体活動 ・グループ活動①の確認グループ活動② ・上記の問いに基づき「歴史認識」について検討授業後 コメントシート(翌週提出)2-2.分析の方法2-2-1.対象の選択(1)授業についてここでは,特定の授業(第 7 週)に注目した理由を説明したい。それは,この授業を通して,国際問題の知識にとどまらず,コミュニケーション活動に不可欠とされる事柄を学習者が学んだと考えられたからである。学習者が他者の主張の背景に目を向けようとしたり,他者を様々な側面を持った人として意識したりしたこと,つまり,一人ひとりの多様
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