4.まとめ25論文藤原恵美・王晶・加藤真実子・倉数綾子・小林北洋・髙木萌・松本弘美/『日本語教育』から見る日本語教師養成・研修に関する言説の変遷いこと,また,その結果,自己研修型の教師としての学びが期待できること。授業分析や考察の作業は,仲間との対話を通じて行うことでより効果的になること。」(p.22)と,自らの客観的な授業分析を対話を通して仲間と行うことが教師の成長に寄与することを述べた。更に近年の流れとして,教師養成の論文と同様に,日本語教育の社会的役割を認識しより良い教育環境を構築できる教師を育成するための研修のあり方についての主張がでてきている。奥田(2010)は日本語教育機関の現職者研修で取り組むべき課題として「学習の専門家として学習者と学習について話すためのコミュニケーション力と多様な他者との協働」(p.49)と「教師自身が変革主体となるための教育現状のメタ認知,教育の未来ビジョンの立案,組織内外での協働」(p.49)を挙げている。阿部・八田(2010)は国際交流基金日本語国際センターが実施してきたノンネイティブ教師(NNT)研修の考え方と変遷を概観し,「上級研修は,世界の日本語教育は多様である(多様性)という現実認識と,その中には共有できる課題や問題も少なくない(普遍性)ということを発見する機会を提供している。」(p.46)とし,日本国内だけでなく世界的な視野をもった研修を提言した。つまり,これらの言説は,対話を重ねながら「自己研修型教師」として絶えず自分自身の成長を目指す教師,日本語教師の社会的役割を認識し,日本語教師の枠を超えて多様な関係者と連携・協力する能力を有する専門家としての教師の養成・研修が求められていることを示していると言えよう。本研究では日本語教師養成・研修の言説がどのような変遷を経てきたのかを,日本語教育に関連のある政策・施策と照らし合わせながら検証し,そこから今後必要とされる養成・研修のあり方を考察するための基礎資料とすることを目的とした。これらの変容を政策・施策に照らし合わせると,政策・施策が変化するにつれ養成・研修の言説も変化しており,関連性があることもわかった。養成・研修に関する言説は,1970 年代は知識重視型教師の育成,1980 年代は学習者の多様化に対応できる教師の育成,1990 年代は「自己研修型教師」の育成が唱えられた。この「自己研修型教師」の言説は,2000 年代は協働できる教師の育成,2010 年代以降は社会性のある教師の育成が論じられている中で,変わらず唱え続けられている。つまり,1990 年代以降の言説は「自己研修型教師」を中心に新しい言説が加えられることによって拡張していることがわかった。今回,日本語教師養成・研修に関する言説の歴史的変遷を俯瞰することで,年代ごとの日本語教師養成・研修のあり方が見えてきた。2019 年 4 月から新しい出入国管理法が施行され,今後在留外国人が急増することが予想される。それに伴い,さらなる日本語教師の養成・研修の充実が必要となる。しかし,このまま「自己研修型教師」を中心にした養成・研修でいいのか,今後も日本語教師養成・研修のあり方に対するさらなる考察を重ねていきたい。
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