22早稲田日本語教育実践研究 第8号/2020/13―28を振り返り学び続ける必要性を述べている。つまり,1990 年代には,実践をともなった言語習得のための知識と理論を持ちながら,他分野の専門家と連携し,留学生,定住者,外国人児童生徒・帰国児童生徒,外国人研修生などの多様な学習者に対応できる「自己研修型教師」を育成するための養成・研修が多く提唱されたと考えられる。3.4 学習目的がそれぞれ異なる学習者のニーズに柔軟に対応できる教師を養成・研修する時代(2000 年代)1990 年代までに日本国内においてインドネシア難民,中国帰国者,日系三世を中心とした定住者,外国人児童生徒等,留学生,外国人研修生といった学習者の増加,学習需要の多様化が進んだ。加えて海外における日本語学習者数も増加の一途をたどった。これらに伴い,日本語教師が求められる場も多様化していく。このような状況を背景に,1985年当時に文部省が「日本語教員の養成等について」内で示した「日本語教員養成のための標準的な内容」の改善の必要性が指摘されるようになる。そこで,2000 年文化庁の日本語教員等の養成・研修に関する調査研究協力者会議において「日本語教育のための教員養成について」と題する調査研究報告が取りまとめられ,日本語教師養成の新たな教育内容が示された。また,これまでの政策は地域における外国人住民の増加につながり,国内学習者の多様化の下で多様な外国人問題に直面することとなった。こうした地域における多文化共生の推進は地方自治体が必要に迫られて取り組みを行ってきたが,国レベルでの検討の必要性が叫ばれるようになる。このような状況の中,2006 年には総務省による多文化共生の促進に関する研究会が,地域における多文化共生を促進するうえでの課題と今後必要な取り組みを公表した。これは国レベルで地方の多文化共生について総合的,体系的に検討された初めてのものである。また,一方,グローバル化を背景とした政策も推進されるようになり,国内外の学習者の多様化がさらに進む。例えば,2008 年から経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者の受入れが始まり,2009 年にはフィリピンからも受入れが始まった。2000 年代の教師養成に関する論文では,学習目的がそれぞれ異なる学習者のニーズに柔軟に対応し,自ら成長しつつ多方面から日本語学習について考えることができる教師の養成が必要であると論じるものが増えていくという特徴がある。亀川(2006)は「2000年に日本語教師の養成制度が見直された背景には,日本語学習ニーズの多様化をはじめとする社会変化に伴う日本語教育活動の拡大がある。このような時代に求められるのは,まさに自ら成長を遂げていくことのできる日本語教師なのである」(p.24)「養成教育において自らの成長を実現していける教師を専門性・人間性の両面から育成していかなければならないこと」(p.30)と,日本語学習ニーズの多様化に対応するためには,自らの成長を実現していける教師の養成が必要であると述べている。また,もう一つの大きな特徴は,教育機関や地域社会での人間関係を作りながら日本語習得を支援し,学習者の社会参加を促すことができる日本語教師の養成が語られるようになったことである。有田(2004)も「同僚として友人として同級生として隣人として,あるいは妻として夫として母として父として,日本語を母語としない異文化の背景を持つ人々と,暖かな人間関係を作り上げ
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