早稲田日本語教育実践研究 第8号
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21論文藤原恵美・王晶・加藤真実子・倉数綾子・小林北洋・髙木萌・松本弘美/『日本語教育』から見る日本語教師養成・研修に関する言説の変遷開始され,最初のモデル地域として群馬県太田市等 8 つの自治体が指定される。定住外国人の増加にともない外国人児童生徒・帰国児童生徒の日本語教育支援も求められるようなった。一方,国際援助活動の一環として技能実習制度が創設され,法務省・外務省・厚労省・経産省・国交省の 5 省共管で設定された国際研修協力機構が制度の円滑な運営,適正な拡大を進めることとなる。この制度により,「研修」の在留資格で滞在する外国人が増加する。定住者,外国人児童生徒等,外国人研修生といった新たな日本語学習者の増加,多様な学習需要を受け,中・長期的視点に立った日本語教育振興を検討する必要性が生まれ,文部科学省は「日本語教育推進施策について―日本語の国際化に向けて―」を提示する。ここでは日本語教師の養成の推進についても述べられた。日本語教師養成の課題を整理する目的で 1999 年には文化庁に「日本語教員の養成に関する調査研究協力者会議」が設立され,翌 2000 年の調査研究報告「日本語教育のための教員養成について」(文化庁2000)において,日本語教師養成における教育内容の改善や日本語教育能力検定試験の今後の在り方についても言及された。1990 年代の教師養成に関する論文の中では,齋藤・田中・今尾・出口・稲葉(1992)が大学院での日本語教育の実習経験をもとに,「教育実習では,自己研鑽型教師を養成すべく,自己開発能力の基盤養成に注意を払いたい。」(p.55)とそれまで見られなかった「自己研鑽型教師」の養成の重要性について述べている。また,自己開発能力について「自己開発は,指導方法に対する視点を固定化せず,常によりよい方法を求めることにより推進される。柔軟で多角的な自己に対する多角的評価視点を育む機会を実習のプロセスに盛り込むことは,その一方策となる。」(p.55)と,自己評価能力の育成における実践の必要性も主張されるようになる。小柳(1998)は「その場その場の教師の問題解決力や判断力の知識のベースとして,言語習得論は日本語教師養成の課程でもっと教えられるべきである」(p.43)と述べ,理論や実践に基づいた言語習得の知識を持ち,多様な学習者を指導できる教師の養成を主張している。教師研修に関する論文では,他の専門領域の教師との連携を主張する論文が増える。科学技術分野における日本語教育と他の専門科目教師のチームティーチングについて,教育実践に基づいた検討を行った結果をまとめた五味(1996)は,「日本語教育のみならず,全学の動向(カリキュラム再編成といった教育に属する事柄から大学の政策行政的な事柄まで)に関心を払い,他の専門領域の教員と共通認識を持つことである。」(p.9)と,他の専門科目教師との連携の重要性について言及している。外国人児童生徒の日本語指導の新たな課題,日本語教育の今後の在り方を考察した伊東(1999)は 「子どもたちが学習上の困難に直面したときに,その原因が日本語力の弱さにあるのか教科内容に関する知識・体験不足にあるのかを見極めることが大切になる。」(p.39-40)とし,教科を担当する教師と日本語教師が共に行う研修が必要であると主張している。また,この頃から養成の言説と同様に「自己研修型教師」の育成を重要視する言説が増えていく。林(1991)も現役教師が授業の準備に追われる現状を指摘し,「真の実力を養成するには職場での勉強会を頻繁に持ち,同僚と切磋琢磨する」(p.200)ことであると主張し,自分の授業を振り返る機会を持つことが重要であることを指摘している。また,「現場にすぐ役立つものだけを追いかけず,研究発表に参加し,研究書に目をとおす」(p.201)等,教師自身が自ら実践

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