早稲田日本語教育実践研究 第8号
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4.まとめと今後の課題11センター最前線木下直子/学習効果を高めるブレンデッド・ラーニングの導入を目指して第 1 回目の対面授業のオリエンテーションでは,コースの説明をするとともに,edX と同じコンテンツを科目履修者であれば特別に利用することができるサイトに登録をし,使い方の確認をした。特別なサイトを利用することにより,edX の講座が公開されていない時期にでもコンテンツの内容調整が可能となる。履修者は翌週の対面授業までに,SJB1のコンテンツで語彙,文法,会話表現を学習した上で小テストを受け,自ら内容理解度,到達度を確認することが求められる。今学期は,小テストで満点を取ることをその回の出席の要件とした。対面授業では,クイズのフィードバック,内容確認,会話練習,ペアやグループで活動をするなど,対面という学習環境を生かし,自分の文脈で日本語が使えるよう時間を活用した。授業見学に来た教員の 1 人は,授業内で見事に文法説明にほとんど時間を取っていないことに驚いていたが,その点はブレンデッド・ラーニングのよさであると言えよう。15 週 30 回の授業は,第 2 章の表 1 の 12 課以外に,オリエンテーション,中間テスト,期末テストを実施する形で行った。オンラインで提出を求めた課題が 2 度あったが,その際に単純な選択問題であると,履修者間で回答を流用する傾向が見られた。オンラインで提出する課題は評価対象としないか,個人の考えや経験を述べるような,流用が難しい問題にする必要がある。2019 年度秋学期の履修者は 23 名(基幹理工学部 12 名,創造理工学部 6 名,先進理工学部 5 名)であったが,日本語の既習度に差があった。SJB1 は日本語の初学者を対象としており,本コースも初学者を対象としているが,履修者は,初学者が 2,3 名で,初級後半,中級,そして日本語能力試験 N1 を取得している超級の学習者も数名いるなど,レベルに幅があった。超級学習者の履修にあたっては,このコースを履修する様々な事情を聞いているが,西早稲田キャンパスから早稲田キャンパスに短時間で移動するのは容易ではないため,今後もこのような状況は続くと考えられる。レベルの差があるクラスでは,日本語で自分を表現するような教室活動にし,実社会でも行っているように,初学者でもわかる日本語で話したり,説明したりする「わかりやすさ」を評価項目に入れるなどの工夫が求められるだろう。今後も工夫を重ねる必要がある。本稿では,インターネットの環境さえあれば,無料で受講が可能であり,日本語を教える教員にとっても部分的に利用可能な初級日本語 e-learning 教材,SJB のコンセプトとコンテンツを紹介するとともに,2019 年度秋学期に edX で開講した SJB のコース運営・実践,理工学術院のブレンデッド・ラーニングを取り入れた「Japanese1 (1)」のコース運営・実践,さらに両者のコース終了後に見えてきた課題について報告した。e-learning における学習の継続性は大きな問題であり,SJB のコンテンツを開発したワーキンググループでもこれまでに検討してきた(佐野ほか 2019)。今回の分析結果から,ディスカッション機能に投稿し,参加することで,学習を継続させる可能性が確認された。今後は,ディスカッションへの参加をいかに促すかについて検討していきたい。現在は,理工学術院に在籍する留学生を対象として SJB のブレンデッド・コースを開

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