早稲田日本語教育実践研究 第7号
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2早稲田日本語教育実践研究 第7号/2019/1―2 ともあれ,当時はまだ駆け出しで,論文執筆や学会出張はともかく,海外の研究者と一緒に実験をすることや,そもそも外国暮らしも初めてだったので最初は中々大変だったが,それだけに毎日が新鮮で一年足らずの間に多くの経験を積むことができた。教育者という立場からは,ここで得たものを如何に学生さん達に還元するか,が大事な仕事で,研究室内でのコミュニケーションの取り方やゼミの進め方を始め,今でも試行錯誤を続けている。また,これまで十数名の留学生を修士,博士課程に受け入れてきたが,研究自体は化学と英語であらかた事は足りるものの,ほぼ全員がより進んだコミュニケーションをすべく日本語の修得を希望し,日本語教育研究センターには大変お世話になっている。拝見するとカリキュラムは体系化された総合科目群と多彩な内容のテーマ科目群が数多く用意されたとても充実したものであり,特に後者では言葉の背景にある文化や歴史,慣習なども包含して教えておられることが見て取れ,皆様の創意工夫や熱意と志に感服する次第である。なお昨今日本人学生の内向き志向が指摘され,当研究室でもそのような傾向が無きにしも非ずといった場面もあるのだが,留学生達に直接的に接すると,その高い意欲や将来への希望と使命感,さらにこれまでの経験談に触発され,「自分もこのままではいけない」と意識改革をしてくれることが少なくない。その意味からも,双方の学生がよりコミュニケーションを深められるようになるのは重要な意味を持つといえる。現在,早稲田大学には全体で百を超える国 / 地域から集まった六千名近い外国人留学生が在籍している。今後も各学部における英語学位プログラムの進展など含め,その数は増加が予測され,特に日本語に関しては初級クラスに相当する履修希望者数の増加が見込まれている。日本語教育研究センターには,早稲田キャンパス以外での履修希望者数の増加の面からも,これまでに西早稲田,所沢,北九州各キャンパスに向けたオンデマンドプログラムをご用意頂いてきたが,大学全体としても教室数や距離,時間など種々の制約を解決するため,MOOC(Massive open online course:大規模公開オンライン講座)の利用を中心とした科目提供システムの整備について,大学総合研究センターをはじめ学内の各箇所が連携し検討している。日本語教育研究センターにも早速 MOOC のコンテンツを活用したコースの開講をご準備頂いているが,システムまわりの立ち上げ等に極力余分な負荷が発生しないようにできればと思っているので,お進め頂ければ大変幸いである。最後にもう一つ,英語の“chemistry”が互いの相性というような意味も持つということも,実は渡米中に知った。ある反応が進行するか否かには様々な条件(やれ温度だの圧力だの)が相関しており,それらが一つでも変化すると,反応の終点(平衡位置という)も変わってそれなりに「居心地のよい(エネルギー的に最安定な)」ところに落ち着くようになるのだが,このようなところが語源なのかも知れない。ただ日本語ではウマは合ってもカガクが合う,とはまだ言われていないので,そのような意味でも使ってもらえるよう,「化学」もより身近なものになっていかなければと思っている。(ほんま たかゆき,早稲田大学理工学術院)

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