実践紹介―学習者にわかりやすく示す調音方法―1.「ら行」子音の発音指導の課題2.学習者に示す「ら行」の子音の調音方法泉水 康子33早稲田日本語教育実践研究 第 7 号 科目名:総合日本語 レベル:初級 1 ・2 /中級 3・4・5 /上級 6・7・8 履修者数:17 名 一斉授業の教室における,仮名五十音の単音レベルの発音指導方法については,教師の発音をまねて学習者が斉唱する旧来のレシテーションが今も主流であるように見受ける。しかし,レシテーションの場面では,学習者は,耳の鼓膜を通して聞こえる教師の声(気導音)と自分の声(気導音),加えて自分の体内を通して聞こえる自分自身の声(骨導音)の三つを聞き取りながら,自分の発音器官を調整しなければならない。これは学習者にとって,実はかなり難しい作業なのではないだろうか。 とくに「ら行」の子音のように,前後の音や語中における位置等さまざまな要因で微妙に異なる音については,レシテーションによる指導だけでは充分とは言い難い。たとえば,Ueda & Davis(2001)は,日本人の幼児に見られるロータシズムについて分析し,「ろうそく,レモン,りす」に現れる「ら行」の子音(歯茎弾き音)と,「パラシュート,グローブ,テレビ」のそれ(側面接近音)との違いを指摘して,「ら行」の子音の曖昧さに注意を喚起している。実際,母語の影響や日本語の教科書のローマ字表記の影響から,「ら行」の子音がアルファベットの「R」音のような巻き舌になったり,あるいは上歯茎の裏に舌が密着するアルファベットの「L」音になったりする例は,初級のみならず中級レベルのクラスですら間々見受け,矯正に苦心している現状がある。 そこで,本稿では,とくに「ら行」の子音の発音について,レシテーションに加え,調音位置や舌の形を学習者にもわかりやすいよう視覚的かつ具体的に示した発音指導方法の実践例を提示した。 下図 1 は,筆者が授業で学習者に見せる「ら行」の子音の調音方法を順次示したものである。ここでは,教師が自分の右手を口蓋に,また,左手を舌端に見立てて学習者に示し,吹き出しに記したような英語による簡単な説明をしている。こうすることで,「ら行」の子音は(おおむね)尖った舌端で口蓋を軽く叩く弾き音であり,調音位置はアルファベットの「L」(上歯茎裏)と「R」(硬口蓋)の間のどこかであることを示すのである。「ら行」の発音指導
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