早稲田日本語教育実践研究 第7号
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のようなものかという基本的な情報すら不足している場合がある。さらに,キャリア意識の曖昧さとキャリアに関する情報不足,さらに,日本語能力の問題から,就職に向けた実質的な活動,すなわちインターンシップや各種セミナー,ワークショップなどに参加する割合が低いという傾向も見られる。(2)中級学習者 中級学習者の傾向としては,「キャリア意識の高さ」「キャリアに関する情報不足」「就職に向けた実質的活動への参加割合の低さ」などが挙げられる。初級学習者と比較して,国内企業または在外日本企業への就職を希望する中級学習者は多いが,日本語による大量の就職活動情報の中から自身に必要な情報を取捨選択する情報収集力が不足していること,かつ,現実の職場で仕事を進めることのできる日本語能力も不十分であることから,上級学習者や日本人学生が参加しているようなインターンシップやセミナーに十全に参加できていないという状況が見られる。つまり,国内企業または在外日本企業へ就職する意志はあるものの,日本語能力と情報収集の点で最も支援を必要としていると言える。(3)上級学習者 上級学習者の傾向としては,「キャリア意識の高さ」「キャリアに関する情報収集力の二極化」「就職に向けた実質的活動への参加割合の高さ」などが挙げられる。上級学習者は,初級,中級学習者と比較して,日本語による就職活動情報に自由にアクセスできるため,日本でキャリアを積もうと考えている者は,早期に情報を収集し,各種セミナーへの参加やインターンシップを行っている。また,サークル活動やアルバイトなどで知りえた日本人学生や目的を同じくする留学生から,就職活動に関する情報を得るなど,学内外の情報リソースを利用して,自律的に就職活動を行う者もいる。一方,日本語能力が高くても自律的に行動できない学習者は,情報収集が不十分で,活動に参加できていない。さらに,非正規学生であるがゆえに参加できない就職支援企画などもあることから,今後は,学習者の自律性を促すと同時に,制度的な改善が必要になると考えられる。3-3.学習者に期待されている支援 本節では,「大学にどのような支援を期待したいか」という質問に対する回答を整理する。学習者に期待されている支援を分類すると,表 2 に示したように,主に,①情報提供に関わる支援,②就職活動の準備に関わる支援,③就職活動のスキルに関わる支援,④日本語支援,⑤ネットワーク形成支援,⑥その他(特別支援など)の 6 種に区分できる。レベル差より個人差が大きいが,全体的には,初級学習者が英語による支援や就職活動の基本的な情報提供を期待しているのに対して,中・上級学習者は企業情報や就職活動のためのスキル,インターンシップなど具体的な就職活動に関わる支援を期待していると言える。 しかし,ここで注目すべきなのは,本学では,これらの支援のうち「キャリアセミナー」「専門家によるキャリア相談」「アルバイト,インターンシップの紹介」「日本企業に関する情報提供」「エントリーシートの書き方」「面接の受け方」などの多くの項目については,正規学生を対象としてすでに日本語で実施されているということである。また,近年,留学生の増加に伴い,留学生を対象とした支援も充実しつつある。つまり,キャリア28早稲田日本語教育実践研究 第7号/2019/23―30

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