4.今後の課題と展望 秋学期終了後にインタビューした学生 5 名は,CJL での日本語学習の継続を考えていないことが分かった。ある学生は,北米の大学院進学の準備で専門科目の勉強に忙しくなるため日本語学習に時間が取れないが,専門の研究に生かすために,進学後に機会を見つけて学習することを希望していた。同様に北米の大学院進学を予定している学生は,日本語学習の継続理由として,専門とは関係が無いが,日系であることから家族とのコミュニケーションとアイデンティティに関わる文化を知るためであると述べていた。また,CJL修了後に日本での就職を希望しており,社会人となった後も機会を見つけて日本語学習を継続しようとしているケースもあった。将来日本での就職を考えている他の学生は,そのための資格としての日本語能力を身に着けるだけでなく,政治経済文化等幅広く勉強することの必要性を自覚していた。また,将来へのはっきりとした希望はないものの,この留学で学んだことを忘れないように独学で日本語学習を継続していきたいという希望を述べる者もあった。 以上,本調査の結果からは,単位取得や,将来に備えての道具的な動機だけでなく,様々な日本語学習の目的を各自が自律的に継続性を持っていることが窺えた。今回の調査では,本学における履修者が機関をまたいで何らかのコースを受講することで継続していく可能性を考慮する必要性が浮かび上がった。 総合 1 の多様性については,日本語初級前半コースに対する認識や,日本語を学習するということは自分にとってどのようなことか,ということに対する捉え方が異なっていることが窺えた。「初級前半」だからこそ,単に語学としての日本語学習ということだけではなく,学生の多様な学び方に,学生,教育者がお互いに気づき,考えていくことができる仕組みが必要であると考える。例えば,コース間のつなぎ目ののりしろとなるようなふりかえりや今後を展望する活動をコースに組み込んでおくことにより,多様な学びを支えられるようになると考えられる。 総合 2 の継続性については, CJL 内での学習の継続のみならず,他機関などでの学習との,すなわち日本語学習の主体的な継続性を念頭に,総合 2 がどのように位置付けられるのか,また,位置付けるべきかを考えるための調査が必要である。また,学期によって総合 1 から総合 2 への継続の割合が異なることから,コース運営に柔軟性を持たせるなどの対応もありえるだろう。 しかし,学生の多様性を尊重し,コースを考えていくことは重要であるが,ある一時期の学生のニーズや能力に合わせるというように短期的かつ近視眼的に進めることには問題があると考える。CJL では,学生が主体性を持って日本語学習へ取り組み,学習環境を構築していくことを目指している。長期的な視野で学生が主体的,かつ自律的に取り組めるように,中級及び上級を含めコース改善や開発をしていくことが肝要である。 舘岡(2016)では「多様性や主体性を CJL の中だけに閉じ込めておくのではなく,全学で豊かなことばの学びが起きるように,CJL はその中継点としての役割も持っている」とし,かつ「開放性をもって学内の他箇所や学外,社会と連携し,その中継点として責務13ショート・ノート佐野香織・齋藤智美・鄭在喜・吉田好美/総合日本語1・総合日本語2履修者実態調査報告
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